【読書メモ】トヨタのカタ(第3部まで)
- 作者: マイク・ローザー(Mike Rother),稲垣公夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2016/01/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「カンバン仕事術」でも紹介されていたため読んでみた。ジャンル的にはビジネス書にあたりマネジメントやリーダーシップの本として読んでも良いが、チームにカンバンを取り入れる上でカンバンという仕組みが持つ本来の目的や意図の理解を深めるのにも役に立つのではないかと考えた。
「トヨタのカタ」とは
トヨタで毎日、際限なく繰り返される2つの行動ルーティン、すなわち、癖と思考パターン
このルーティンを日本では「カタ」と呼ぶと紹介されている。「カタ」とは代々伝わる武術の基本動作のことでもあるが、さらに深く調べると次のような別の意味がある。
二つのものをお互いに整合させたり、同期させつづける方法
トヨタの実践する「カタ」の特徴は手法や原則ではなく、どのような状況にも適用できてプロセスレベルで行われるものである。
本書ではもっとも基本的な2つのカタを説明する。
改善のカタ
改善し、適応し、進化するために繰り返すルーティン
コーチングのカタ
リーダーや管理者が全社員に改善のカタを教えるために繰り返すルーティン
己を知れ
トヨタの考え方や行動の違いを理解するために、まず自分たちの現在の組織の管理方法について考える。
工程改善の手法
- ワークショップ
- 既存の慣習を変えることなく行える
- 継続的改善とは違う
- バリューストリーム・マッピング
- 工程レベルで本当の現状を深く見る能力を高めてくれるものではない
- 全体像に目配りするために使うと効果的
- どれをやればいいかわかりにくくなる(多くの箇所で改善点を明らかにするため)
- アクション・アイテム・リスト
- 早く対策に飛びつきすぎる
- 問題解決や改善の能力を効果的に高めてくれない
トヨタの事業哲学と全体の方向性
トヨタの基本思想「 顧客のためにいい製品をつくる方法を改善し、進化させることで会社として長期間生き残る 」
一個流し
ある付加価値工程から次の付加価値工程まで待ち時間ゼロ、ロットまとめなしで部品が直接移動し顧客に納入される生産ビジョン
※財務上や経理上の数字ではなく状態として表現している
ターゲット状態
- 現在の能力を少しだけ超えたところに設定
- いまよりビジョンに一歩近づく
- 追求しているビジョンの方向に次々と設定しそれに向かって進む
- 財務的、経理的な目標ではなく状態を表現する
自分の会社を見る
他社のベンチマークにあまり時間を費やすべきではない
改善のカタ
ターゲット状態の設定
4つのツール・手法
タクトタイム
1つの工程で生産されるある製品群の顧客需要速度
⇒タクトタイムと計画サイクルタイムのギャップを縮める
一個流し生産
最適な人数の配置⇒目標を一歩ずつ達成するために何を改善すればいいかを調べられる
※余分な作業者を配置すると問題が発生しても目標生産量を達成できるため問題が解決されず改善しない
平準化
- 製品ミックスと数量を平準化しあらかじめ定められた生産手順を守る
- 一時的な需要増に対してカンバンの枚数は増やすが工程では平準化パターンを守る
- 問題発生時は何が妨げているかを考えて1つの問題に取り組みなるべく早く平準化パターンに戻る
カンバン(プルシステム)
- カンバンが示す工程(部品をどの機械で作るかなど)をパターン化する
- フレキシブル(どの工程でどの部品もつくれる)にすると問題の原因がわかりにくい
ターゲット状態はターゲットではない
- 目標を非人格化し、人びとの努力を一致させるような挑戦目標をつくりだす
- 工程を観察する
- チャレンジする
ターゲット状態とみなすべき標準の例
- 作業標準:タクトタイム、作業者の数、1個流し、作業者の作業要素、作業要素の時間等
- 平準化:計画順序、最大ロットサイズ、完成品在庫等
- プルシステム:スーパーマーケットの中の位置、在庫数量、カンバン等
- 物流:配送ルート、停止場所等
ターゲット状態の達成目標時間
1~4週間
※ターゲット状態が先であればあるほど計画する内容が増える
問題解決と適応
ターゲット状態までの道のりはグレーゾーンであり、小さい歩幅で素早く歩み、その途中で学び、調整する
PDCAに関する4つのポイント
- 適応的・進化的システムは本質的に実験を要する
- 仮説は、知的討論や意見、人間の判断では検証できず、実験でしか検証できない
- 実験が科学的であるためには、仮説が反証される可能性がなければならない
- 仮説が反証された場合こそ、とくに新たな知見を得て、みずからの能力を高めることができる
小さいサイクルでPDCAをまわす
- 違う種類の質問をすることを学ぶ
- 一度や二度の試みで成功することは少ない
- 計画通りにいかたかったことに興味を持つ
- 問題がないように見えるときは進歩していない
- 責めるよりプロセスに集中する
- 問題の大半が人ではなく人が働くシステムによって引き起こされる
- すばやいサイクル
- ステップをひとつ進むことでしか次の障害が見えない
- 心を開いたままにする
- 科学的な態度を貫く
- 次のステップは予想しているものとは違うかもしれない
ターゲット状態に進むための5つの質問
- ターゲット状態は何か?
- 現在の実際の状況はどのようか?
- ターゲット状態の達成を妨げている障害は何か?いまそのどれに取り組んでいるのか?
- 次のステップは何か?
- このステップを実行することで何を学んだのか?いつ現場に行って見ることができるか?
問題解決で強調すること
- 作業システムについて学ぶ現状を理解する
- 現場で観察し、分析する
- 因果関係を見つけるために一度に1つしか実施しない
改善のカタを使い始めると終わりはなくなる
- ターゲット状態がある程度一貫するようになったら次のターゲット状態を設定する
- 目指すべきターゲット状態がないと後戻りする
まとめ
著者はトヨタのカタの研究を踏まえて、マネジメントを次のように定義している。
人間の能力を協調的な方法で利用することで、望ましい状態を系統的に追求すること
人を責めるのではなくプロセスに目を向ける考え方や、ターゲット状態をチャレンジと言い換えているあたりは経営的なマネジメントだけではなく、近年のモダンなチームやアジャイルプロセスのマネジメントにも通じる部分があると感じた。本書の後半はこの「改善のカタ」を組織として維持していくための「コーチングのカタ」について解説されている。引き続き読み進めてトヨタのカタの理解を深めていきたい。