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レディオキャットハテナ

【読書メモ】異文化理解力

仕事でオフショア開発をやっている関係で紹介された本です。過去の仕事も含めて異文化に触れる機会はわりと経験しているつもりでいましたが、この本を読んでみると異文化についてまだまだ理解できていないことが多いと痛感しました。

また、本書で出てくるカルチャーマップという各国の文化をマッピングしたものを見ると日本が世界の中でもわりと極端な領域に配置されている事が多く、世界から見れば特異な国であると感じました。本書でも触れられていますが、異文化理解力の難しいところは自分の文化内ではあまりにも当たり前のことなので、異文化間の問題に気づけないところにあります。知っていればすぐに気づけることが、理解不足のために気づくことすらできず、不安やストレスを抱えて仕事を続けることにもなりかねません。そう考えれば異文化理解力というのはグローバルな環境で仕事をするためには必須のスキルといえます。

大都市のコンビニなどのように日本人以外と接する機会は増えてきていますが、同僚や取引相手が日本人でないことが当たり前となる未来もそう遠くないかもしれません。そんな未来に向けて異文化理解力というスキルを身につけるためには必須の教科書的な本だといえます。

カルチャーマップの8つの指標

著者は8つの指標それぞれでカルチャーマップをまとめています。指標が8つあるのは、例えば次のようなケースがあるためです。

率直にものを言うローコンテクストな文化のいくつかは、ネガティブな批判を伝える際は遠回しで間接的に言うことがあり、反対に普段遠回しにものを言う文化のいくつかは相手の欠点をはっきりと包み隠さず伝えることがある

書籍では前者はアメリカ、後者はフランスと述べられています。つまり、ある指標では同レベルに分類されている文化間であっても、別の指標では全く違うことがあります。グローバルなマネジメントにおいては、これらの指標を念頭に置いて相手の文化と場面に応じた接し方をすることが求められます。

1. コミュニケーション(ローコンテクストvsハイコンテクスト)

ローコンテクストは伝達に多くの言葉を要するのに対して、ハイコンテクストは少ない言葉で行間を読みます。日本はもちろんハイコンテクスト側になります。どちら寄りの文化であるかは歴史的背景も関係していると書かれています。

歴史の長さと民族の単一性の度合いがコミュニケーションのあり方に影響を与えている

同じ思想を持つ民族が長く一緒にいれば多くの言葉をかわさなくても伝わりやすいということです。

2. 評価(直接的なネガティブ・フィードバックvs間接的なネガティブ・フィードバック)

冒頭で引用したアメリカとフランスの事例のように、その人の能力や業績の評価をフィードバックする際にネガティブな内容をストレートに伝えるかどうかは、コミュニケーションの指標とは違った配慮が必要になります。直接的なほうが好まれる文化で間接的なフィードバックを行うと、回りくどい、わかりにくいと受け取られて信頼を損なう可能性があるため、間接的であるほうが安全というわけではありません。また、直接的であればどんなことを言っても良いわけではなく、無礼なフィードバックはさらに事態を悪くします。

3. 説得(原理優先vs応用優先)

一般論や概念をしっかり掘り下げてから結論を出すのかの度合いが原理優先です。ドイツでは裏付けとなる理論をしっかり説明してから結論を述べるのに対して、アメリカでは結論ありきで応用例を次々とあたっていきます。グローバルなチームの場合は理論をしっかり説明してから応用例に入るなど両方を取り入れるプロセスが必要になりますが、それによってイノベーションを生み出せます。

4. リード(平等主義vs階層主義)

平等主義の文化では職務上の階級は役割であり、上長であっても一人の人間として平等に接することが好まれます。階層主義では職務上の階級を意識した接し方が必要になります。業務上必要であっても階級を超えた相手に直接コンタクト取るようなことは批判の対象となります。平等主義の文化では職務上の階級を意識したふるまいや行動は逆に信頼を失います。実際には両方の文化を持つグローバルチームの場合、どちらもマネジメントできる柔軟性を身につけなければならないと述べられています。

5. 決断(合意志向vsトップダウン式)

物事を決めるときに全員で合意を取るか、責任者が鶴の一声で決めて進めるか、これもそれぞれの文化で逆の行動を取れば信頼を失います。前者であれば勝手に決める上司、後者では決められない上司ということになります。難しいのは両方の文化が混在したグローバルチームの場合です。合意のとり方をチームで決めておくことが良いとされています。

もしあなたが合意志向とトップダウン式文化の両方がいるグローバルチームと仕事をするときは、連携の最初の段階で意思決定の方法をはっきりと話し合い合意をとろう。

ちなみに、ここでは日本の稟議システムが「階層主義かつ超合意主義」とやや皮肉とも取れる形で紹介されています。

6. 信頼(タスクベースvs関係ベース)

仕事は仕事として信頼を築くか、プライベートで食事を共にしたり家族ぐるみで付き合うなどの関係を重視するかです。ここでも日本の飲みニケーションが紹介されていたりします(文化としては消えつつある気もしますが)。

7. 見解の相違(対立型vs対立回避型)

対立意見を大切にするか、そうした対立は回避するかです。日本はもちろん対立回避型です。面子を重視する文化の場合は対立意見が出ることが面子を失うとして嫌われますが、対立意見を出さないほうが失礼だとする文化もあります。このあたりは階層主義とも関連しているかもしれません。

8. スケジューリング(直接的な時間vs柔軟な時間)

簡単に言うと時間に厳しいかどうかですが、何に価値を置くかという視点で捉えています。著者の事例として、講演時間をきっちり守る文化もあれば、時間だからと質問を打ち切るよりも時間を延ばしてでも質問を受け付けるほうが良い文化があることが述べられています。

参考

HENNGEという企業のインタビュー記事ですが、書籍内でも紹介されているカルチャーマップが紹介されています。

hennge.com

著者本人のYoutubeチャンネルでカルチャーマップについて語っている講演が紹介されています。


The Culture Map: The Future of Management

ハーバード・ビジネス・レビューでの著者の紹介記事です。ビジネス視点で異文化マネジメントの重要性が書かれています。

www.dhbr.net

2019年のアウトプットをふりかえる

2019年大晦日なので1年をふりかえりたいと思います。 本当はもう少し早く記事を書く予定でしたが、毎年使っているブログ投稿数の集計に使うPythonスクリプトが動かなくなってしまいこのタイミングになっていまいました。普段からPC環境を整備しておくことの大切さを改めて感じている2019年末です…

わざわざ年の瀬間際にこのブログの需要があるかわかりませんが、自分自身の記録のためでもあるので投稿しておきます。もし大晦日に読んでもらえたならビールでも飲みながら気軽に読んで頂ければと思います。

なお、集計に使っているPythonスクリプトこちら
去年のふりかえり記事は下記です。

radiocat.hatenablog.com

73エントリー

この投稿を含めると2019年の投稿は73件でした。昨年は88件だったので15件減ってしまいました。今年は 自社の勉強会 に積極的に関わるようになり、毎月1回と3ヶ月に1回のイベントに参加したり、仕事関係でも チームでブログ連載 に取り組むなど、個人的な活動以外でのアウトプットが増えたことが1つの要因です。

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種類別ブログ投稿数

内訳としては読書が39件で昨年の倍以上に増えたのに対し、勉強会が30件で昨年の半分に減りました。これはマネージャ業に取り組むため意識的にマネジメント系の書籍の読書量を増やしたためです。相対的に勉強会が減っているのはマネジメント業が忙しかったこともありますが、一番の要因は前述のとおり運営への参加などの組織的な関わりが増えた分、個人的なアウトプット機会が減っています。

2018年 2019年 2019年月平均
読書 18 39 3.25
勉強会 64 30 2.5
その他 6 4 0.25
合計 88 73 6

月平均で6件なので、週1回ぐらいは何らかのアウトプットをしていたと考えれば個人的に意識していた最低限のレベルはクリアできたと思っています。ちなみに読書のアウトプットは39件ですが、完読した書籍は50冊でした。こちらも読書量を増やすことを意識したからには超えたい目安だったのでクリアできて満足しています。

38カテゴリ

アウトプットしたカテゴリも57から38に減りました。前述のとおりマネジメント系のインプット・アウトプットに注力したことがWordCloudにも顕著に現れています。

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カテゴリのWordCloud

年初のエントリーで、「近年生まれてきた新技術の多くがテクノロジー・パイプ・サイクルの幻滅期に入るので幅を広げるよりは生き残っている技術を選択していきたい」という方向性について触れましたが、この年初に考えた方向性は1年を通して変わらなかったと思います。

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カテゴリ別ブログ投稿数

技術以外ではアジャイルスクラムは世の中的にも盛り上がっている分野で、個人的にもこの1,2年取り組んでいることで去年よりやや減っているものの相変わらずアウトプットが多いカテゴリになっています。注力したマネジメント系についてもコーチングやマインドフルネスの分野は世の中的な流行の影響もあります。

2020年に向けて

これらを踏まえて2020年は次のようなアウトプット活動にしたいと考えています。

勉強会(特に技術系)の関わりを維持

勉強会で得られる生の情報や刺激は大切にしたいので最低でも現状は維持したいと考えています。何らかの形で週1回程度は関わりを持ち、そのうち半分はアウトプットに繋げるとすると月2〜3回ペースになるので、2019年の月平均2.5件のアウトプットは維持したいところです。ただ、このブログ以外にも会社のブログやQiitaでの投稿機会もあるので総合的な目安で考えています。

読書は60冊/月

今年はなんとか50冊読み切りましたが、まだまだ読書量は増やしたいと思っています。ただ、読書というのは同じ分野の本をまとめて数冊読むことも多いので、もう少し強弱をつけた読書とアウトプットの習慣をつけたいと思っています。例えば、興味を持った分野の本のうち1冊はじっくり読んでしっかりアウトプットし、関連して読む数冊は1冊目とは違う内容を中心にしっかり読んで、アウトプットもその部分中心にするという形です。具体的なバランス感覚はやりながら定着させたいと思います。

学習サイクルの定着化

昨年末のエントリーでは「Tryしたい技術テーマをバックログ化」したいと書きました。実際にはマネジメント系のテーマが増えたので技術テーマに限らず自分の学習テーマをバックログ化して取り組みました。OKRのプロセスやPDCA系の本なども参考にして毎週ふりかえりをしてみたりしましたが、まだスタイルは定着していません。テーマのバックログ化と毎週のふりかえりは一定の形になってきたので2020年もKeepしてスタイルを定着させたいと思います。2020年中にはそのスタイルを体系化してアウトプットできればと思っています。

2020年もよろしくお願いします

というわけで、これを書いている時点でもう数時間になってしまいましたが今年も無事にアウトプット活動を締めくくることができそうです。様々な形で関わってくださった方々、刺激を与えてくださった皆さまに感謝しています。2020年もよろしくお願いします。

【読書メモ】スタンフォード大学 マインドフルネス教室

スタンフォード大学 マインドフルネス教室

スタンフォード大学 マインドフルネス教室

個人的に2019年の流行テーマとなった「マインドフルネス」の総括として年末に読んだ本ですが、この本はマインドフルネスのやり方や実践事例について詳しく書いてある書籍とは少し違った内容でした。「マインドフルネス」というよりは「マインドフル」に関する本で、2019年に発売されて話題になった同じ著者の『スタンフォード式 最高のリーダーシップ』のベースとなる知識や考え方を深く掘り下げた本です。

スタンフォード式 最高のリーダーシップ

スタンフォード式 最高のリーダーシップ

マインドフルな生き方

マインドフルネスという言葉の日本語的意味について筆者は次のように述べています。

マインドフルネスをもっともよく表す漢字は「念」であり、これは「今」と「心」のふたつの部分からきている。しかし、日本語で「心」が気持ち、強い感情、意識や思考、魂など、その人全体を指すのにたいし、西洋でマインドフルネスはといえば、ハートから切り離された知性や思考といったイメージを持つ人がいる。それを考えると、ハートフルネスという表現のほうが、「念」に近いだろう。

つまり、語感だけ捉えるとマインドフルネスは心と思考が切り離されているように捉えられそうだが、筆者の考えでは心も思考も今ここにあり、そこから新しい生き方を模索するのがマインドフルな生き方ということです。

マインドフル・リーダーシップ

マインドフルな生き方をベースとしたリーダーシップについて次のように述べています。これは『スタンフォード式 最高のリーダーシップ』でも述べられているこれからのリーダーシップの考え方のベースでもあります。

マインドフルなリーダーとは、自らの思考や行動を意識することができ、自分の影響下にある人々の潜在力を存分に発揮させられる人のことである。心の内側の、深い落ち着きと集中を備えた場所から生まれてくるこのリーダーシップを身につけたなら、いかなる事態が生じた際にも、そのたびに対応していく力を持つことができる。

8つのポイント

本書ではマインドフルであることのポイントが8つの章にわけて述べられています。

念(Mindfulness)

冒頭に書いたとおり心を今の状態に向けることがマインドフルネスの基本です。

初心(Beginner 's Mind)

「初心忘るべからず」という諺にあるように、学び始めた時の気持ちを忘れず常に謙虚であれということです。

kotowaza-allguide.com

ここでは「ヴァルネラビリティ」という言葉も引用されています。「ヴァルネラビリティ」とは弱みのことですが、謙虚であるために自分の弱さを受け入れて認めることが重要であると述べられています。

本当の自分(Authenticity)

「自分らしくある」ということでもありますが、ここでは「自分は何者なのか?」という深い問いについても述べられています。

絆(Connectedness)

「人とのつながり」の大切さについてです。ここでは他者への「共感」や「敬意」という視点で述べられています。

聴く力(The Heart of Listening)

他者理解の視点で「傾聴」について述べられています。コーチングなどでもよく出てくる「アクティブ・リスニング」についても触れられています。聴くというのは相手の言葉に耳を傾けることであり、話すのではなく「沈黙」が重要であると述べられています。

受容(Acceptance)

ありのままを受け入れる。日本語の「仕方がない」という言葉はどうしようもないと考えて諦めるというネガティブな意味で使われますが、病気などの受け入れざるをえない境遇ではそれを受け入れることも大切で、マインドフルな生き方に繋がると述べられています。

感謝(Gratitude)

他人へ感謝することは他者理解にも繋がるという視点で述べられています。そのうえでポジティブな思考に向かう感謝の気持ちは、科学的にも心理面に良い影響を及ぼすことがわかってきているようです。

義理、人情、責任(Responsibility)

ここでの「義理、人情、責任」は前述の「自分は何者なのか?」という問いに繋がる、より深い意味も込められています。自分らしく生きるというのは自分の都合で好きなように生きるという意味ではありません。ありのままを受け入れて周囲の人とのつながりを深め、自分らしくあるというマインドフルな生き方は「義理、人情、責任」も伴うということです。マインドフルにそれを追求することが求められます。

参考

business.nikkei.com

著者が行っているグループワークを紹介した記事です。「あなたは何者なのか?」という問いについて語られており、本書の理解を深めることができます。

gendai.ismedia.jp

著者自身による解説記事で、特に「学び」という視点で書籍から文章が多く引用されています。

nomind-nolife.com

著者のワークショップの解説記事です。書籍にも出てくるキーワードが引用され、マインドフルとはどういうことか?についてまとめられています。

【読書メモ】世界のエリートがやっている 最高の休息法

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる

2019年のマイブームの1つがマインドフルネスでした。マインドフルネスに関しては既にいくつか本を読んである程度の知識をつけて実践もしているのですが、自分の熱感が高いうちにまとめて本を読んでおくのは知識を体系化して定着させるために重要だと思っていて、その流れで読んだ本です(何となく来年になると読まなくなる気がして)。

本書は大学研究員の主人公が脳科学の教授からマインドフルネスを教わるという物語形式でマインドフルネスのやり方と背後にある科学的根拠や研究内容が紹介されています。今回は物語の中で語られているマインドフルネスを「最高の休息法」としている理由と、7つの実践方法についてまとめておきます。

脳の休息

そもそもなぜマインドフルネスのような休息法が必要なのか?について、物語の中で教授が次のように語っています。

組織であろうと個人であろうと、それが成長していくためには努力や頑張りだけではダメなんじゃ。薪木を燃やし続けるためには、薪木のあいだの「空間」が欠かせん。それこそが休息なんじゃとわしは考えとる。そして、ビジネスにはビジネスの方法論があるのと同じように、休息には休息の方法論がある。

脳の疲労の原因となるDMN

DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)は脳の働きの1つで、「意識的な活動をしていないときに働く脳のベースライン活動」と述べられています。もともと、脳は人間の身体全体が消費するエネルギーの中でも消費量が多い機能であり、その中でも多くのエネルギーを消費する脳の活動がこのDMNのようです。

  • 何もせずぼんやりとしているときにも働く
  • 脳は身体が消費する全エネルギーの20%を使う
  • 60〜80%がDMNという脳回路に使われる

詳しくは以下のサイトで著者が解説しています。

diamond.jp

心の「自動操縦状態」

日常生活の中で何気なくやっている作業では、意識は過去や未来にいるとし、これを「自動操縦状態」と表現しています。会社に行く前の準備をしながら、何となく過去の失敗を思い出したり、起きていない未来のことに不安を巡らしたりということは誰しもあるのではないでしょうか。何となく今と関係のないことを考えてDMNを消費し、脳が疲労することで同時に心も身体も疲弊していくというわけです。

  • 目の前のことを何気なくこなしているとき、心はいまと関係ないところにある
  • 自動操縦を脱して心のふらつきを減らすには日常的な行為に注意を向けていまを取り戻すことが有効

マインドフルネスは今の状態に意識を集中させることでこの自動操縦状態を脱出する方法です。

レイジー・デーでモンキーマインドを抑える

モンキーマインドとは「サルたちが頭の中でうるさく騒ぎまくっているような状態」です。仕事が忙しいとか、受験勉強とか、家族の問題とか、人生の難しい問題を抱えた時にこういうことは誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。マインドフルネスは、こういう問題にうまく対処するのにも役立ちます。

このような雑念が多い状態での良い休息の手法として「レイジー・デー」が紹介されています。1日中何もせず「 怠ける日」のことです。物語の中では勤め先のルールとして以下のようなレイジー・デーを導入しています。

  • 月1日の特別有給休暇をルール化し、自分のケアに集中
  • 何もスケジュールを入れず、各自が歩行瞑想や軽い読書をしたり、家族へ手紙を書いたりする

休暇取得が奨励されている昨今で、「休みを取っても何をやっていいか分からない」という声もあったりしますが、自主的にレイジー・デーを取ってみるのも良いかもしれません。

これらも著者自身の記事で紹介されています。

diamond.jp

脳の疲労を解消する7つの実践方法

具体的な手法は本をしっかり読んで実践するのが良いと思いますが、代表的な7つの実践方法について概要をまとめておきます。

マインドフルネス呼吸法

最も基本となる瞑想方法です。落ち着いた状態で自分の呼吸に注意を向けて雑念を払います。1日5分でも良いので同じ時間に同じ場所で毎日やるのが良いとされています。

ムーブメント瞑想

自動操縦状態での雑念を払う瞑想方法です。歩いている時に脚の動きに注目したり地面に接する感覚に注目するなどの「歩行瞑想」が代表的で、物語中にも何度か出てきます。

ブリージング・スペース

不安やストレスを抱えている時にそれを受け止めて客観視する瞑想方法です。ストレスを感じているときの呼吸や胃痛などの身体の変化に気づき、変化に注目します。

モンキーマインド解消法

モンキーマインドの雑念を取り払う瞑想方法です。認知療法的に雑念に対する解釈のしかたを変えたり、視点をずらすなどのアプローチを取ります。

RAIN

怒りなどの感情的な衝動に対処する瞑想方法です。RAINは次の頭文字です。

  • Recognize(認識する)
  • Accept(受け入れる)
  • Investigate(検証する)
  • Non-Identification(距離をとる)

メッタ

愛情、慈しみなどの感情を引き出してポジティブな感情を育てる瞑想方法です。ポジティブな感情を育てることでマイナス感情も抑えることができます。

ボディスキャン

身体の疲れや痛みを抑制する瞑想方法です。足のつま先から順番に身体に注意を向けて全身をスキャンします。

参考

本書の内容をもとにした著者自身による連載記事をあわせて読むと理解が深まります。

diamond.jp

【読書メモ】MOTの達人

MOTの達人―現場から技術経営を語る

MOTの達人―現場から技術経営を語る

以前から読みたいと思ってリストアップしていたところに、先日読んだ『 ソフトウェア・ファースト 』の中でこの本が引用されていたのがきっかけで熱感が高まって一気に読みました。

MOT(技術経営)と言うとビジネス書や経営書と同類だと思われそうですが、私の感想としては『 ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略 』や『 エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド 』に近い内容でむしろ技術者のための本であると思います。前者はどちらかというと経営者向けの企業文化醸成に視点が置かれていたイメージで、後者はシリコンバレー発のスタートアップ視点だったのに対して、この本は日本の技術畑の現場からキャリアを積んだ人が語っているので日本人にはこちらのほうがイメージしやすい面が多々あります。東芝ソニーという日本の大企業の事例がベースになっているとはいえ、企業の規模は関係なく参考にしたい思想や哲学がたくさん散りばめられており、技術を大切にしたい思いを持って組織をリードする立場にある人にはおすすめしたい本です。

技術経営(MOT)とは何か

Wikipediaによると、以下のように描かれています。

技術を使って何かを生み出す組織のための経営学

ja.wikipedia.org

本書では冒頭でMOTの意味について以下のように書かれています。

技術経営の2つの意味

  • 技術をベースにした経営全体
    • 企業の競争力・付加価値生産力の源泉を技術に求める経営
  • 技術開発活動のマネジメント
    • 技術開発活動とそれを市場につなげるためのマネジメント

冒頭の1章と2章ではまず著者の2人が実際に経験した東芝での日本語ワープロ開発、ソニーでのCD開発について語られています。その後、研究開発のテーマ選定、MOTでのマネジメントの話、研究所長〜CTOまでのMOTでのキャリアパスの話が語られています。ワープロとCDの開発の話は読み物としても面白いです。 読み進めていく中で個人的に印象に残った部分をいくつか紹介します。

コンセプトの重要性

技術を使って何かを作るときにはコンセプトが非常に重要であることを改めて実感します。

コンセプトを作るときには、技術の言葉で語らないということが、とにかく重要です。

日本語ワープロでは次の3つのコンセプトを作ったようです。

  1. 自分が手で清書するよりも速く文書が作れる
  2. どこへでも持っていける
  3. どこからでもアクセスできる

なぜコンセプトが大事か?について次のように述べています。

コンセプト第一行目を実現するために一番長く時間がかかったわけです。(中略)そのときに、自分たちの気持ちを奮い立たせてくれるには、やっぱり原点がないといけない。そこへ戻れないわけですね。(中略)
もう一つは、自分たちだけではフィージビリティー(実現可能性)のすべてを証明はできないんです。(中略)そのときにコンセプトがないと、相手に伝わりにくいし、しどろもどろになって、「そんなの後でいいよ。もう少したってから来てくれ」みたいなことを言われてしまう。

何かあった時に原点に帰れる、利害の異なる他部署に対して正しく説明できる、ということの重要性は技術を使って何かを作る仕事の全てに当てはまるのではないかと思います。

イノベーションの評価は、まず顧客の共感の量

経営論で語ると売上や利益に話が向かいがちですが、著者はまず顧客の共感の量が大切だと語っています。

僕はお客さんの拍手の量で喜ぶというのは、ある意味でエンジニアの性としていいことだと思います。(中略)だから、売上が何十億円というようなことではあまり言わないですね。何千台売れたというような、台数なんですよ。(中略)
MOTの本質の一つを考えると、技術のイノベーションを起こせたということの評価は、まずいったんは物量でやるべし、ということになりますね。それが、顧客の共感の量を表す。

会社への貢献の話をしているのか、技術組織としての成長の話をしているのか、組織をリードする立場であれば話す目的を考えてそれぞれ使い分けるのが良いと思いました。

顧客の声から仮説をつくる

研究テーマを扱う難しさについて語られている中での話ですが、これもものづくりにおいて大切なことです。

私は、お客さんが何か言っているのだが営業の自分にはよくわからないとか、そのお客さんからいつも厳しいことを言われるのでどうも行きたくない、行きにくいというようなお客さんを紹介してくれ、と同期で営業に入った友達に頼んで一緒に行くことにしていました。十人にお会いすると二人くらいは非常によく考えていて、今の製品では対応できない新しいニーズをきちんと教えてくれる。(中略)一人のお客さんがいいことを言ってくれたら、次はそれを仮説にして、ほかのそういう厳しいお客さんのところへ行って、こういうものはどうですかとぶつけていく。そうやって転がしている間にだんだんイメージが湧いてくる。(中略)つまり、お客さんから情報を得るというのは、単に聞くだけではなくて、仮説をまず作って、それを次のお客さんにぶつけていって正体がだんだん見えてくる、ということなんですよ。

開発のマネジメント

研究開発での開発のマネジメントの話ですが、製品開発でも同様だと感じたことをいくつかピックアップします。

修羅場の予測

どんな仕事でも必ず修羅場というか難しい局面になるときがあるので、その修羅場を想定できるかどうかが大切です。修羅場に直面してからどうしようかではなくて、ある程度までこのへんが一番きつくなりそうだということをあらかじめ考えておくこと。そして、どういうところを事前によく検討しておかなければならないかを考えて、その修羅場をうまく乗り越えていくことです。それをしないとしないと自分が約束した研究成果が出せない。いつまでたってもずるずるとそのへんのルート探しをしているというような形になる。

短期視点での課題解決や素早い改善のマネジメントも大切ですが、企業の事業活動であればたいてい半年から数年先の計画というものがあるはずであり、先を見据えて重要な局面をイメージしておくことも大切です。本書の中でも修羅場を予測することと経験することの重要性は何度か語られており、それはマネジャーの教育でもあると述べられています。

八合目からは直登あるのみ

いつまでにやらなければならないというときの八合目ぐらいまで来ると、もうあと期限はこれしかない、と思うのです。それで、八合目というのは山でも一番きつくなります。時間が迫ってくるとみんないら立っていくわけです。そうすると、もう八合目まで来ていますから、いろいろそれまでの齟齬が大きくなるんです。計画どおり行っていない。(中略)失敗するチームの多くはステップバックするのです。戻るわけですから納期はどんどん迫ってくるわけです。そうすると、もうステップバックすらもできなくなって立ち往生してしまう。脇道というのはまだ許されますが、しかしみんなきついんだからあと一合だけ頑張ろうというのが正解。直進あるのみのほうが成功する確率が高いです。

前述の修羅場にも関連することですが、終盤の重要な局面でこういうことがよく起こります。個人的に、直近で大きめの開発に関わって同じようなことがあったので改めて重要性を実感しています。もちろん、強引に登ろうとして滑落してしまっては意味がないので、いかに冷静に道や進み方を選んで登りきるかという点では、修羅場の経験や最初に決めたコンセプトを意識できているかなどの他の要素も大切だと思います。

この話の中で、アルプスで遭難して荷物も全て失ったけど偶然見つけた地図を頼りに無事生還し、あとで確認したらピレネーの地図たったという小咄が紹介されています。要するにああだこうだと悩んで行ったり来たりするよりも腹をくくって突き進んだほうが生き残る確率が高いという教訓の話です。

www.og-cel.jp

技術のマネジャー

最近はEMという言葉が浸透しつつありますが、技術に軸を置いたマネジャーの考え方やふるまいについても参考になる部分がたくさんありました。

意識的に外へアンテナを向ける

三分の一くらいは外の人といろいろ話して、アンテナを外に向けていました。
(中略)
意識的にやらないとどんどん減るのが外に出ているアンテナなんですね。そのために、人脈と言うか人のチャンネルを社外に作っておく。こういうことは意識的にやらないと、その時間はたぶんゼロになってしまう。

外へのアンテナが大切なのはマネジャーに限らない話ですが、意識しないとゼロになるというのは確かにそのとおりで、他人から指摘を受けることも少ないので本当に意識しないとゼロになると思います。

人とのネットワーク

上記でも語られているように外から入ってくるチャンネルというのは人とのネットワークです。これが無ければ意識していても情報が入ってこないのです。

技術の可能性の臭いを嗅ぎ取る秘訣は、要するに人脈なんです。おもしろい話はないかと、あのひとだったらわかってくれるかもしれないという人に話してみる。そうすると、その人がさらにどこかで話をしてくれたりする。そこで、森さん、こういうことを探しているんだったら、こういうのはどうですかと、そういう人脈のネットワークができているわけです。(中略)だから、向こうから情報が飛び込んでくる面があるんです。現実には、しらみつぶしに研究所に行って探すなんてことはできないわけです。

原理原則と哲学

良い研究所長は技術の俯瞰図を持っており、筋の良い技術を嗅ぎ分けて意思決定していると語っています。そういった組織のリーダーの特徴を次のように述べています。

一つは、科学、サイエンスの原理とか原則をきちんと考えようとする思考のクセがあって、それでもって良い悪いのスクリーニングをやっておられる方。
もう一つは、主体性という話につながると思うんですけど、自分の中で世の中はこのように動くものであるという哲学を持っておられる方です。

哲学については具体的には次のように説明されています。

哲学ができるということは、仮説を立てられることと一体みたいになっていて、仮説は最初は大変なんだけど、それがだんだん検証されてくると、その人固有の考え方になって、その人流の哲学になってくる。そうすると、表現が変わってもその人なりに筋の通った、背骨の通った、あまり人の意見でぐらぐらしない思想になって、あの人は哲学があると、そういう表現になってくるのではないかと思います。

技術組織のリーダーやマネジャーはこの2点を意識して行動したいところです。

参考

www.icom.co.jp

www.sony.co.jp

コンパクトディスクの開発