【読書メモ】トヨタのカタ(第4部以降)
- 作者: マイク・ローザー(Mike Rother),稲垣公夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2016/01/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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約400ページある書籍の後半について。トヨタのカタとは「改善のカタ」と「コーチングのカタ」の2つがある。第1部と第2部はトヨタのカイゼンを語るうえでの世の中全体の現状と、トヨタがどう取り組んでいるのかについて、第3部は2つのカタのうちの「改善のカタ」について書かれていた。第4部は「コーチングのカタ」について、第5部はトヨタ以外の会社でどう実践するかの考察になっている。第3部までは前回の記事を参照。
コーチングのカタ
トヨタでは全社員にメンターがついて、弟子(実行者)とペアで仕事をする。メンターは必ずしも直属の上司ではなくその時の活動や育成ニーズに合わせて選定される。
実践的問題解決手法
5段階のステップで実践する日常業務の問題解決手法。
- 問題を取り上げる
- 優先度の高い問題を見つける
- 状況把握(行って見る)
- 問題の発生点を見つけても台を明確にする…問題の発生点を見るけるまでは対策に入らない
- 原因を調査
- 5回の「なぜ」を行う
- 対策をつくり試験する
- 一度に1つしか変えない
- フォローアップ
- ふりかえり
上記はよく知られた手法だが、トヨタでは 3に重点が置かれる 。
- このステップを徹底的に行えば4の対策をすばやく実行できる
- 対策が明白でない場合はもっと2の分析をして3の原因を特定する
- 5のフォローアップはなるべく素早く行う
メンターが弟子とペアで仕事をするのは 解決策を考えるためではなく改善のカタの考え方と行動へ適切に導くため である。
- 弟子に見に行かせて報告を待つのではなく一緒に見に行ってその場ですぐに適切なアドバイスができるように行動する
- メンターのほうが優れた解決策を考えることがあっても、あくまで弟子が対策を考える(問題を十分解決できるならメンターはこれを受け入れなければならない)
- メンター自身に弟子と同じ状況で改善のカタを実践した十分な経験が必要
A3
メンターと弟子の対話をサポートするための文書。以下のような内容をA3フォーマット1枚にまとめる。
- テーマとビジネスケース(なんのための文書か?なぜこれをやっているのか?)
- 観察結果や現状の要約(現場に行ってみた分析に基づく内容)
- ターゲット状態(未来の時点の状態を具体的に書く)
- 現状からターゲット状態に移るための提案と計画
- 達成指標
- 反省からのキーポイント
弟子に深く考えさせて、効率的なコーチングが維持できる。
改善のカタの行動様式の開発
すべての組織に適合するアプローチは無い。自社の状況にあわせて自社の管理システムを開発する中で詳細を詰める。
改善のカタを浸透させるには人の行動様式を変える必要があり以下のような方法はうまくいかない。
- 教室での研修:頭の知識だけでは行動様式や習慣、文化の変化につながらない
- ワークショップ:狭い領域の改善をするためのもの
- コンサルタントに代わりにやってもらう:文化とは本質的にみずからやるべき
- 指標やインセンティブ、動機づけの仕組みに頼る:改善のカタの行動様式を生み出して組織文化を変えていくような指標とインセンティブの組み合わせは存在しない
- 組織変更:組織変更で継続的改善と適応を活性化することはできない
コーチングのカタの理想的な状態とは
自動的、反射的に改善のカタのパターンに従うようになり、それによって私たちの意識が現状の詳細に集中できるようになっている
3つの主要要因
- 改善のカタ:望ましい行動方法
- コーチング:このような行動方法の教え方
- 緊急度:このような行動方法の優先度
どれか1つに集中しても抜けていても効果がない。これら3つのバランスをとる。
行動様式の開発も改善のカタを使う
以下のステップの改善のカタを使って行動様式を開発する。
- 現状を把握する
- 測定可能なターゲット状態を明確にする
- ターゲット状態に向かって進むために短いPDCAサイクルをまわす
改善のカタがまだ望ましい形で機能していない段階では、PDCAを通じてカタの教え方とコーチング方法を調節する。
コーチング・サイクルを構成する5つの質問
コーチング・サイクル:改善のカタのPDCAサイクルをまわしてカタの教え方とコーチング方法を調節すること
- ターゲット状態は何か?
- 現在の状況は何か?
- ターゲット状態達成を妨げている障害は何か?そのうちどれに取り組んでいるのか?
- あなたの次のステップは何か?(次のPDCAサイクル)
- このステップを実行したことで何を学んだか?いつ行って見ることができるか?
ターゲット状態への移行計画
トレーニングレベルに応じた教育活動を実践する。
- レベルA:知っている…コーチングのカタを繰り返し実践する
- レベルI:実践できる…改善のカタを繰り返し実践する
- レベルC:コーチできる…入門研修を行う
計画の中に振り返りの時間を必ず入れる。
行動様式の開発のまとめ
行動様式を開発するための道筋がよく見えないのは普通の状態であり、改善のカタによって予測不可能な側面に対応する。
まとめ
巻末の解説でも述べられているが、トヨタのカタと従来の改善活動との違いは大きく2つあり、それぞれがトヨタのカタを構成する改善のカタとコーチングのカタに結びつく。
- トップダウンで設定されたビジョンに対してターゲット状態を設定しボトムアップの改善活動を方向づけるプロセス⇒改善のカタ
- 現場の状況を深く観察する指導方式により思い込みや常識から脱却した改善を行うプロセス⇒コーチングのカタ
「トヨタのカタ」はトヨタという企業を支える経営的手法の1つでありながら、改善に取り組む誰もが活用できる要素がちりばめられた継続的改善のカタでもある。実践しながらつねに最大限の能力を発揮して継続的に取り組むことにつながるため、本書の最後では「生涯を通じた練習」だと締めくくっている。