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【読書メモ】会社を強くする人材育成戦略

会社を強くする人材育成戦略 (日経文庫)

会社を強くする人材育成戦略 (日経文庫)

そろそろ次年度に向けて色々と考えていかないといけない時期ですが、育成の取り組みかたについて考える参考にしようと読んだのがこの本です。

本書は、人材育成について、企業の経営者や担当者が、全体のフレームワークや近年のトレンドを理解し、戦略や計画を立案する力をつける入門書です。

どちらかというと人事部門の視点で書かれているので厳密には畑違いの専門知識ですが、入門書ということで深く掘り下げるというよりは基礎的な知識が幅広く展開されており、組織マネジメント上で直面する人材育成においても参考にできる点が多かったです。現場としては専門知識よりも経験則に基づいてやっている面も多いので、科学的な研究や調査結果に基づくフレームワーク、近年のトレンドが紹介されている点は特に参考になります。
また、育成される側の視点でもこういった知識を知っておくと自分の成長のために取り組むうえで役立ちそうだと感じました。例えば若いうちからリーダーシップのレベルが高い人のほうが成果を出しやすく、成長力が高いことなども、研究によりそういう事がわかっていると知識的に説明されたほうが、単にリーダーシップは大事だと言われるよりも納得して取り組むことができます。

人材育成とは

人材育成について、著者は以下のように分類しています。本書で扱う人材育成はこれらの要素の中から語られています。

狭義の人材育成

広義の人材育成

  • 報酬制度
  • 目標管理制度(MBO
  • ジョブローテーション制度
  • メンター制度

若手社員の人材育成

まずはそもそも採用が大事であることが述べられていますが、育成とは少し主旨が異なるので割愛。その次のステップについて、若手社員の社会化について述べられています。

心理的契約

個人と組織の間の暗黙の相互期待のことを「心理的契約」と言うようです。

jinjibu.jp

以下のような状態をつくりあげることが重要です。

  • 個人の役割や職務を明確に理解する
  • この仕事をやっていけるという自信が芽生えてくる
  • 職務態度が安定し、組織に貢献しようという姿勢が明確に見える⇒早期離職に至る危険を回避

次のステップとして最初の3年間の重要性についても述べられています。ひとり立ちまでにかかる時間の調査結果によると、概ね3年、職種によっては長くて5年という結果が出ているようです。我々エンジニアは技術系なので5年程度かかるということになります。

  • 平均3.4年、3年以内の累計で62.3%、4年以内の累計で70.3%
  • 一般に事務系よりも技術系のほうが長い、5年程度かかる

「ミドルの自己学習」という論文では、最初の3年間の仕事の内容が、その後の成長に影響を与えることが示唆されているようです。

ミドルの自己学習(濱中淳子)

3年間の仕事において「楽だった」「忙しくなかった」という人はミドルになって学習行動をとらない

これは組織マネジメントの視点でも、新卒から入社3年までの育成方針に影響を与えそうな興味深い内容です。

www.nakahara-lab.net

また、リーダーシップの育成についても興味深い説明があります。リーダーシップ開発には時間がかかることから、新人段階から取り組むべきと述べられています。リーダーシップ開発として、次の3つの段階が紹介されています。

リーダーシップ開発

いきなりリーダーシップというのも難しいので、まずパートナーシップから取り組みます。パートナーシップとは、以下のように説明されています。「信頼と対等」が重要な要素です。

一緒に仕事をする仲間と、信頼感に基づく、対等な関係を構築すること

ジョブローテーションの6つの効果

若手から中堅社員へ成長するにあたって、取り入れる人材育成戦略の1つがジョブローテーションです。次の6つの効果があるとまとめられています。

  • 知的熟練の加速
    • 一人前のプロをつくるには、経験させておきたい職務がいくつかある
  • 仕事の俯瞰的理解・客観化
    • 異なる事業、異なる職務を経験することで、全社全体を理解する
  • リーダーシップの開発
    • どのようなリーダーシップを発揮すれば成果があがるのかは、状況によって異なる
  • 社内ネットワークの開拓
    • 社内の人脈開拓
  • 学習の促進
    • 嫌でも新たに学習しなければならない
    • 学習習慣が身についていない人でも、切羽詰まった状況に追い込まれて、学習をはじめる
  • 適応力の向上
    • 新しい環境に適応する訓練になる

OJT

経営幹部となってリーダーシップを発揮している人に「どのような出来事が役に立ったか」尋ねた調査では、「経験が7割、薫陶(関係からの学び)2割、研修1割」との回答だったようです。つまり現場での経験=OJTが最も役に立ったということです。

厚生労働省の能力開発基本調査(2012年度)を引用し、次のようにOJTに力を入れて取り組んでいる動向が紹介されています。

  • 計画的なOJT=59.1%
    • 従業員1,000人以上の企業は75.9%
  • Off-JTとの比較でOJTを重視する=70.6%
  • 指導する人材が不足=51.3%

ワークプレイス・ラーニング

ワークプレイス・ラーニングとは、仕事現場での時間のなかにシステム化されたOff-JTを組み込んでしまう人材育成手法で、OJTの新しい波であると紹介されています。

habi-do.com

顧客が人材育成に果たす役割

「成長を実感している人は、営業などの顧客接点を持つ人により多く、内勤のスタッフとして働くひとには少ない傾向がある」と述べられています。つまり顧客との接点を持つことが人材育成に繋がることが示唆されています。そして、顧客との直接的な接点が無い場合であっても、顧客を意識しているかどうかで成長実感に違いがあるようです。

「社外に顧客はいないが、社内のユーザーを顧客と思っている人」と「思っていない人」を比べると、前者のほうが成長実感を持っている人の比率が明らかに高い

「人が育つ組織」をつくるということ

「21正規のキャリアを考える研究会」研究報告書 という資料が紹介され、次のように述べています。

理想的な社員像を定義し、育成すべきスキル・能力や態度について具体的な言葉で表現しているが、それらを大胆に分類してゆくと最終的には「リーダーシップ」と「専門性」という2つの軸に収束してゆく

つまり、人材育成は大局的には「リーダーシップ」と「専門性」という2つの軸に収束されます。この2軸について次のような傾向が紹介されています。

  • ミドル期(主に40代の社員)は伸びが小さくなる
  • 個人差があるが、どちらかが高くてもう片方が低いままだと成長は次第に鈍化していく
  • もう一方の伸びを必要とするという関係と、片方が伸びるともう一方の伸びを促す
  • 個人のリーダーシップと専門性のレベルを「見える化」して、現在どちらの伸びが課題になっているかをチェックする必要がある

つまり40代を迎えるまでに、2軸のそれぞれを伸ばすように取り組むことが重要です。ある程度の専門性を得られたら、それを活かしたリーダー的な役割を担うなど、2軸を交互に注力するような戦略も良いかもしれません。

また、キャリア観を6つに分類した調査では、30〜40歳前後でもっとも成長しているのは「オンリーワンプロフェッショナル」タイプであると説明されており、このタイプは「50代にかけても高い成長力を持続し、最終的にもっとも高い水準に到達できる」としています。一方、「競争型ジェネラリスト」は40〜50歳では極端に低い成長度合いになっていると述べられており、このタイプは40代より前までにマネジメント層へ引き上げるか、別のタイプへ転換を促すようにマネジメントしていくのが良いかもしれません。

ローカルとコスモポリタン

キャリア志向についての2つの志向の違いが紹介されています。

  • ローカル
    • 所属組織へのロイヤリティが高く、組織固有の価値やモック表を内面化して、組織内での昇進に関心を寄せているが、技術へのコミットメントは弱い
  • コスモポリタン
    • 所属組織へのロイヤリティは低いが、専門技術へのコミットメントが高く、専門技術が媒介する準拠集団を所属組織以外に持つ

しかし、どちらかに偏るのが良いというわけではないようです。

実際には好業績の社員ほど、ローカルでもあり、コスモポリタンでもあることがわかっている

最終的に成果を出すにはローカルであり、コスモポリタンでもある人材になっていくことが求められています。