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【読書メモ】ケン・ブランチャード リーダーシップ論

『1分間マネジャー』『1分間リーダーシップ』などの著者によるリーダーシップ論の集大成ともいえる名著です。著者はまたマネジメントのコンサルティングを行うケン・ブランチャード社のCSO(Chief Spiritual Officer)でもあります。そのブランチャード社の長年の研究と経験がまとまった約450ページの大作なので読むにはちょっと気合が必要ですが、それだけの価値は十分ある内容です。

ハイパフォーマンス組織

本書ではまず、より高い成果を目指すリーダーが持つべきハイパフォーマンス組織のイメージについて書かれています。ハイパフォーマンス組織とは何か?を知らなければ、高い成果をあげるリーダーにはなれないということです。

ハイパフォーマンス組織とは、最高レベルの顧客・従業員満足と成功への熱意により、長期にわたって傑出した業績をあげつづける企業のことである

著者はハイパフォーマンス組織の持つ特徴を6つの要素にまとめて、SCORESモデルをつくりました。

SCORESモデル

  • Shared Information and Open Communication
    • 情報開示と開かれたコミュニケーション
  • Compelling Vision
    • 説得力のあるビジョン
  • Ongoing Learning
    • 継続的学習
  • Relentless Focus on Customer Results
    • 顧客結果への徹底したフォーカス
  • Energizing Systems and Structures
    • 活力を与えるシステムと構造
  • Shared Power and High Involvement
    • 権限移譲と高関与

他のマネジメント理論、リーダーシップ論などでも重要視されている要素が一通り凝縮されているように思います。その中でも特にビジョンと顧客、権限移譲についてはそれぞれ1つの章でテーマを設けて説明されています。『カスタマー・マニア』『ザ・ビジョン』など単独のテーマで別の書籍を書いていることからも著者が重要視していることが伺えます。

状況対応型リーダーシップII

SLII理論(Situational Leadership II)と呼ばれる、4段階のリーダーシップ・スタイルを使い分ける理論です。詳細は本家ブランチャードのサイトに次のように書かれています。

診断は、D1(「意欲満々の初心者レベル」)からD4(「自立した達成者レベル」)までの4つの開発レベルから、当てはまるものを見極めます。そして、メンバーのレベルに合わせて、S1(指示型)からS4(委任型)の4つから適切なリーダー行動を選択するのです。

www.blanchardjapan.jp

S1からS4のリーダーシップスタイルは次のとおり説明されています。

  • S1:熱心な初心者=指示型
    • 熱心で学習意欲がある、楽観的で張り切っている
    • 具体的に実演してあげる、試験を課すだけでなく答えも教えてあげる
  • S2:幻滅した学習者=コーチ型
    • 能力の片鱗を見せつつあるが、困惑し、いらだちを覚えることもある
    • 引き続き指示を続け、アドバイス、質問や提案、双方向の会話を増やす
  • S3:有能だが自信を欠く実践者=支援型
    • 完全に一本立ちすることにためらい、意欲が高揚したり不安に陥る、不安定さ
    • 指示の必要はほとんどない、努力を背後から支援
  • S4:自立した達成者=委任型
    • 単独で活動できるだけでなく、周囲の手本になっている
    • 意思決定や問題解決は本人にまかせ、自分で自分の領分を管理させる

状況対応型リーダーの3つのスキル

また、SLII理論を用いるリーダーに必要な3つのスキルが説明されています。

  • 診断
    • 能力と意欲に注目
  • 柔軟性
    • 4種類のリーダーシップを使い分ける
  • 結果指向のパートナーシップ
    • 対話の質と頻度を高め、部下に同意してもらう

これら3つのスキルを使ってSLII理論を用いるリーダーシップは次の4段階の変容をたどるとしています。

  • 自律リーダーシップ
  • 1対1リーダーシップ
  • チーム・リーダーシップ
  • 組織リーダーシップ

自律リーダーシップ

権限委譲を成功させるために組織とリーダーがすべきことは、イニシアチブをとるためのスキルを備えた自律リーダーを育てることである。

SLII理論のリーダーシップスタイルが指示型から委任型へ向かうように、自律リーダーを育てることが第1段階目の変容です。

自律リーダー3つの秘訣

  1. 思い込みの枠をはずす
    • 制限は問題ではない。問題なのは、時間やお金、地位や権力を唯一の源泉と考えることだ
  2. 自分のもつ力を活用する
    • 地位の力、人柄の力、仕事の力、関係の力、知識の力
    • アイ・ニード(必要がある)=説得力のある言葉で協力を求める
  3. 成功に向けて協力しあう
    • イニシアチブをとって目標を達成するのに必要な方向づけと支援を得る

自律リーダーと成功に向けて協力しあう信頼関係が構築できたら次の段階に入ります。

1対1リーダーシップ

このテーマに関しては「結果指向パートナーシップ」と「1分間マネジャー」という形で2つの章にわたって説明されています。

すぐれたパフォーマンスは全て明確な目標からはじまる

「結果指向のパートナーシップ」については、目標管理をベースに前出の権限委譲に加えて「継続的学習」も交え、1対1の関係においてパフォーマンスを上げるリーダーシップです。次の3つに大別されます。

  • 業績目標設定
  • パフォーマンス・コーチン
  • 成績評価

1対1リーダーシップに必要なもう1つのスキルが3つの基本コンセプトから成り立つ「1分間マネジャー」です。

  • 1分間目標設定
  • 1分間称賛法
  • 1分間叱責法

1つ目は前述の目標管理と重なる部分です。残りの2つはモチベーション・マネジメントやリーダーの誠実さ公正さなどについて語られています。「1分間マネジャー」のテーマには単独で著者による書籍も出ているので、この書籍を元にまた別の機会にまとめたいと思います。

チーム・リーダーシップ

ブランチャードは、なぜチームなのか?について以下のように述べています。

効率的なチームでは、個々に仕事をしているときよりもすぐれた決定を下すことができ、複雑な問題をずっと多く解決できる。さらには創造性を高め、スキルを伸ばすことも可能だ。

ハイパフォーマンスを目指すなら個を踏まえたうえでチームでの成果を目指すことが求められるのです。ハイパフォーマンス・チームの特徴として「PERFORM」が存在しなければならないと述べています。

  • 目的と価値観(Purpose and values)
  • 権限移譲(Empowerment)
  • 人間関係と意思の疎通(Relationships and communication)
  • 柔軟な対応(Flexibility)
  • 最高の生産性(Optimal productivity)
  • 認定と評価(Recognition and appreciation)
  • 士気(Morale)

著者はチームの発達段階を5つに分けています。

  1. 方向づけ
  2. 不平不満
  3. 統合
  4. 生産
  5. 終結

ブランチャードは、5段階目の終結以外の4段階をSLII理論のS1〜S4と一致させることを勧めています。つまりチームが方向づけの段階は指示型、不平不満の段階はコーチ型、統合の段階は支援型、生産の段階は委任型と、チームの発達段階に合わせてリーダーシップスタイルを変えていくのです。

組織リーダーシップ

組織全体のリーダーシップは変革を導くことであり、チームや1対1のリーダーシップよりさらに複雑であると筆者は述べています。変革に直面した人々は6つの段階の懸念を抱きます。

  1. 情報にかかわる懸念:何が変わるのか、なぜ変わるのかなどの情報を必要としている段階
  2. 個人にかかわる懸念:自分自身はどうなるかを組織の各個人が懸念している段階
  3. 実施にかかわる懸念:変革を実施するにあたって何がどうなるのか、どのような援助が得られるのかなどを懸念している段階
  4. 影響にかかわる懸念:変革への関与、報酬、評価などへの懸念段階
  5. 協同にかかわる懸念:人々との連携や変革の広めかたなどを懸念している段階
  6. 改善にかかわる懸念:アイデアを改良したり、改革を進めて、どうすればより良いものにできるかを懸念している段階

ブランチャードはこれらへ対処するためにも、SLII理論を使うことを勧めています。1〜6に段階が進んでいくのに合わせてS1〜S4へとリーダーシップの段階を変えていくのです。

変革の遂行にまったく関与していないと、人々はほぼその変革を快く思わない。世間一般の考えとは逆になるが、人々は変化に抵抗するのではない。支配されていることに抵抗するのだ。

つまり、変革に対しても初めは支持型でアプローチし、変革が進むにつれて支援から委譲へと段階を踏んでリーダーシップのスタイルを変えていきます。また、ブランチャードは変革を導く8つの戦略を提示しています。この戦略もまた、SLII理論の4つのリーダーシップ段階、6つの懸念段階と連動しています。

変革を導く8つのリーダーシップ戦略

  1. 関与し、影響をもたらす機会を増やす<成果ー賛同>
  2. 変革のメリットを説明する<成果ー変革を支持する説得力のある証拠>
  3. 未来を心に描く<成果ー刺激的なビジョン>
  4. 連携を確実にするための試み<成果ー協同の取り組みとインフラ整備>
  5. 可能性を与え、奨励する<成果ー新たなスキルと意欲>
  6. 遂行と支持<成果ー成果に関する説明責任>
  7. 定着させ、拡大する<成果ー持続可能な成果>
  8. さまざまな可能性を探る<成果ー選択肢>

ここまで見てきたようにブランチャード社が提唱するSLII理論は個人から組織まで様々な状況と、対象の変容段階に合わせて活用できる、リーダーシップのベース理論なのです。

サーバント・リーダーシップ

著者は世界をより良い場所にするには特別な種類のリーダーが必要であると述べています。その特別な種類のリーダーがサーバント・リーダーシップです。サーバント・リーダーシップは近年よく聞くようになったバズワード的な言葉です。支援型リーダーというような解説が多いですが、本書の説明の中では以下の説明がサーバント・リーダーシップを発揮するリーダーの説明として最もイメージしやすいと感じました。

マネジャーの顧客は部下である。ひとたびビジョンと方向性が定まったら、マネジャーは部下のために働くのだ。

サーバント・リーダーがすべきことを5つの言葉の頭文字から「SERVE」としてまとめています。

SERVE:サーバント・リーダーのすべきこと

  • See the future(未来を見通す)
    • ビジョンの力
  • Engage, Develop(人を巻き込み、育てる)
    • 1対1リーダーシップ
    • チームリーダーシップ
    • 組織リーダーシップ
  • Reinvent continuously(たえざる改革)
    • 最高のリーダーは学習者である
  • Value results and relationships(結果と人間関係を重んじる)
    • 結果を出せたかどうか
    • 人がついてくるかどうか
    • ついてくる人がいなければ、長期的に結果を出し続けることは非常に難しい
  • Embody the value(価値観を体現する)
    • 信頼を基礎に置き、自分の価値観を表明して、それに合致する生活を送る

これらはここまで本書が説明してきたリーダーシップ論とも連動しています。つまり、サーバント・リーダーはハイパフォーマンス組織を生み出すリーダーシップを持っているリーダーです。

リーダーシップの視点を決める

本書の最後は読者にリーダーシップ観を打ち立てるように求めています。様々な言葉から自分自身の人生の目的、価値観などに合う言葉を選び出し、リーダーシップの中心となる価値観を築く流れが解説されています。まずは2つの視点で言葉をピックアップします。参考までに私がワークショップ的にピックアップした言葉を紹介しておきます。

  • 好ましいと思う性格
    • 凝り性
    • 社交性
    • 創造性
    • ユーモアのセンス
  • 人間関係で成功した例
    • 意欲を引き出す
    • 行動する
    • コーチする
    • 助ける

最後に、ピックアップした言葉を組み合わせて自分自身のリーダーシップの価値観となる定義を作ります。

  • こだわりとユーモアを大切に行動する。またそれをコーチする。
  • 人と人との関わりを助けることで、創造性の意欲を引き出す。

なんとなくそれっぽい価値観が出てきたように思いました。本書ではさらにここから自分自身の信念や、周囲からの期待、自分が周囲へ期待することなどをまとめて何ページにも渡るリーダーシップ観を文章化した実例が紹介されています。約450ページを読み込んでここまでたどり着いたら、リーダーシップ観を文章にまとめてみると良いと思います。