【読書メモ】SPRINT 最速仕事術
SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法
- 作者: ジェイク・ナップ,ジョン・ゼラツキー,ブレイデン・コウィッツ,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/04/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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スプリントはGoogleで考案された製品やサービスのプロトタイプをつくって検証する手法です。5日間で問題を分析し、仮説を立ててプロトタイプを作り、ユーザーテストを行って検証までを完了させます。
デザイン思考をベースにスプリントを取り入れた「デザインスプリント」という手法もあり、日本でもいくつも事例が共有されています。
スクラム開発のスプリントとは直接的には関係ないものの、一通り読んでみると考え方や手法の似ている面も多々あるのでアジャイルなソフトウェア開発の文化の中から生み出されたものではないかと想像しています。残念なのは書籍のタイトルが自己啓発本っぽくて書籍の内容と合っていないことです(アマゾンのレビューなどでも書かれていますが)。書籍の中でアイデアを具体化する際に言語化やキャッチーなタイトルをつけることの重要性が語られているだけになおさら残念さがあります(訳の問題かもしれませんが)。
改めて整理するとスプリントは最速でサービスを生み出す方法であり、文中で解説されている詳細な手順は全てスピード重視でアウトプットの質を高めることに集中して作り出されていると感じました。手法の詳細は本にまとまっていますしネット上にも情報がたくさんあるので、ここではスプリントの概要とともに、「スピード重視でアウトプットの質を高める」ための考え方や手法の部分をピックアップしてまとめておきます。このピックアップした部分に関してはサービスを生み出す以外の仕事でも大事なことであり、サブタイトルにある「あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法」のヒントになると思います。
スプリントとは
製品やサービスを生み出す手法であることは冒頭に書いた通りです。ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェア、マーケティング戦略など、どんなものにも適用できるとされています。通常の業務やブレーンストーミングの手法との違いは以下のように説明されています。
集団ブレーンストーミングとはちがい、1人でアイデアを練る時間があった。(中略) もう一つの重要な要素は、人だ。エンジニア、プロダクトマネージャ、デザイナーの全員が同じ部屋にそろい、それぞれが問題の担当部分にとりくみ、お互いの質問に進んで答えた。
月曜にスタートし、金曜に検証を完了させるまでの日ごとの流れは以下の通り。
月曜日に問題を洗い出して、どの重要部分に照準を合わせるかを決める。
火曜日に多くのソリューションを紙にスケッチする。
水曜日に最高のソリューションを選ぶという困難な決定を下し、アイデアを検証可能な仮説のかたちに変える。
木曜日にリアルなプロトタイプを完成させる。
金曜日に本物の生身の人間でそれをテストする。
中断が生産性を急落させている
5日連続でスケジュールを確保することの重要性を次のように説明しています。
週末をはさむと連続性が失われ、注意散漫と先延ばしが忍び寄ってきた。また仕事に時間をかければかけるほど、自分のアイデアに愛着を感じ、その分同僚や顧客から学ぼうという意欲が失せた。
時間を分断して確保すると先延ばしすることになり、時間をかけすぎると客観的な判断ができなくなるということです。売れるかどうかわからないサービスを生み出す段階では特に重要なことだと思いますが、普段の仕事でも同様のことは言えます。WIPを減らして重要なものから順番に終わらせていくことはアジャイルでも重要です。
長期目標を決める
1週間で結論を出すとはいえ、最初に何のためにどんな目標のもとでその1週間に注力するかを明確にし、チームですり合わせておくことが重要だとしています。
長期目標は、チームの方針と野心を反映したものでなくてはいけない。
これはアジャイルのインセプションデッキと同様の考え方だと思います。短期集中型で取り組むからこそ、長期目標への意識も忘れてはいけません。
プロトタイプはリアルに見えなくてはいけない
最速で検証することが重要なので、プロトタイプも最低限で良いのでは?と思いがちですが、リアルさが足りないと本当の反応が引き出せないとしています。
顧客の「反応」は千金に値するが、「意見」となると何の価値もない
意見ではなく事実を元に分析するのはPDCAの基本です。少し話が逸れますが、ソフトウェア開発でも設計段階で画面のモックなどを作る時に雑に作ってしまい本来確認したいこととは別の議論が起きてしまうことが時々あります(例えば、電話番号欄にカタカナが表示された画面イメージを提示してしまうなど)。個人の意見がフィードバックされないように、適度にリアルなものを見せることは通常の仕事の上でも重要です。
魔法の数「5」
過去に行った83の製品調査を分析し、インタビューの回数と発見された問題の数をグラフにプロットしてみた。(中略)問題の85%が、たった5人のインタビューで発見されていたのだ。
インタビューする顧客は5人集めれば十分であるということです。
同じ調査でテストする人数を5人より増やしても、追加のメリットはほとんどなく、ROI(投資対効果)は急低下する。(中略)
残りの15%を発見するために多大な時間を費やすより、発見された85%の問題を改善してから、再びテストを行うほうがよい
この知見も別の場面でも応用できると感じました。何か新しいことを始める前になるべく多くの人に意見を求めることはよくあります。ひとまず5人集めて検証することで仮説検証でそれなりの精度が出せるということは知っておくと役立ちそうです。
スプリントで使うツールと手法
書籍の中で紹介されている手法やツールもまた、サービスを生み出す以外の仕事でも役立ちそうなものがありました。
ホワイトボード(とふせん)
デジタルな時代であってもこれらのアナログなツールが大切な理由について次のように述べています。
人間の短期記憶はあまりよくないが、空間記憶は驚異的だ。 部屋全体を、チームの「共通の脳」に見立てるのだ。
デジタルは情報の蓄積には適していますが、クリエイティブな仕事の質を高めるには人間のパフォーマンスを上げる手段のほうが良いということだと思います。
タイムタイマー
これもまたアナログなツールです。本書では「魔法の時計」と表現して4ページかけて紹介されています。
スプリントの手法には8分や10分、20分とサイズの違う手法がたくさん出てきます。そのため、それぞれの手法に必要な時間を即座に設定できる全員が見えるタイマーは活用メリットが大きいのだと思います。それくらい時間と質にこだわることが求められているとも言えます。
4段階スケッチ
アイデアを具体化する「スケッチ」の中で紹介されている4段階の手法です。
- メモ:重要な情報を収集する(20分)
- アイデア:大まかなソリューションを走り書きする(20分)
- すばやくバリエーションを生み出す(8分)
- 詳細を考える(30分+α)
合計すると1時間半ほどです。アイデアを出して何かを決める普段の仕事でも、60分の会議を何回か行い、アイデア出しを宿題にして、次の回で具体化して…とやるよりもこのようなやり方を試してみると良いかもしれません。
くっつく決定
くっつくもの(テープとかふせんとかシールのこと)を使う5段階のプロセスです。
- 美術館:ソリューションスケッチをマスキングテープで壁に貼り付ける
- ヒートマップ:黙ってソリューションを見て回り、おもしろいと思った部分にドットシールをはドットシールを貼っていく
- スピード品評:それぞれのソリューションの見どころをすばやく話し合い、ビッグアイデアをふせんに書き出す
- 模擬投票:各自がソリューションを一つ選び、シールで投票する。
- スーパー投票:決定者がこれまたシールで最終決定を下す。
素早く質の高い意思決定をすることも組織として重要なスキルです。どんな仕事でも何らかの形で決定しなければ実行することができませんが、決定の合意形成や納得感は実行にも影響を与えるため、それらを両立させる手法として活用できる場面はありそうです。
参考サイト