【読書メモ】勉強法の科学
勉強法の科学?心理学から学習を探る (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 市川伸一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: Kindle版
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教育学の本ですが、学習のメカニズムを知って自身の学習や他者の育成に役立てることも可能かもしれないという期待のもとパラパラと読んでみた本です。
学習と記憶
記憶のしかたには短期記憶と長期記憶の2種類があります。
- 短期記憶
- 忘れやすい
- 覚えられる量が限られている
- 長期記憶
- 長く覚えられる
- 覚えられる量もほぼ無限
短期記憶の内容を反復的になぞったり思い出したりすることを リハーサル と言い、このリハーサルによって短期記憶から長期記憶に転送されます。つまり、リハーサルによっていかにうまく短期記憶を長期記憶に転送できるかが学習のポイントとなります。
長期記憶するための手法として3つの学び方が紹介されています。
チャンク化
- 同時に覚えられるのは7±2項目ぐらいまで
- 大きなまとまりを作って覚える
例)
- 2進数を10進数にする
- D・O・Gという3文字をDOGという単語で覚える
有意味化
上記の例であれば「犬」と意味づけして覚えます。以下の順に処理水準が深くなり記憶が残りやすくなります。
- 形態的処理
- 音韻的処理
- 意味的処理
※参考
構造化
数字の羅列をフィボナッチ数列などの構造を把握して理解するということです。
※参考
学習動機の2要因モデル
モチベーション理論で2要因モデルというと ハーズバーグの2要因理論 が有名ですが、ここでは内容の重要性と功利性の2つの要因で分類しています。
筆者のモデルによると学習の動機は「学習内容の重要性」と「学習の功利性」の2軸でそれぞれ別々に動機づけされ、学習内容が重要な場合は内発的に、功利性がある場合は外発的に動機づけられるという理論です。モチベーション理論では一般的に外発的動機づけの上位に内発的動機づけが位置づけられるように思われがちですが、この理論ではそれぞれ別の要因によって動機づけられます。例えば、明らかに会社にとって利益につながるような技術を習得するときには「自分の成長のために頑張ろう」と動機づけするよりは「出世や高い報酬につながる」と動機づけしたほうが効果があるという考え方です。実際に起こりうる状況はそんなに単純ではないと思いますが、要因を分類して動機づけのアプローチを選択するのは面白い考え方だと思いました。
※参考
【読書メモ】the four GAFA 四騎士が創り変えた世界
- 作者: スコット・ギャロウェイ
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/07/27
- メディア: 単行本
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2018年のベストセラーで、GAFAという言葉を世に広めた書籍です。GAFAとはGoogle、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を並べた米国の巨大企業の総称です。
著者は起業家、投資家としても活動する大学教授で、自身が関わった事業や経営がGAFAによって失敗に追いやられた経験を持っており、それだけにGAFAに対する分析、評価には説得力があります(やや個人的な恨みも込められていると感じますが)。
本書は400ページを超える大作となっており、GAFAそれぞれの企業についての解説と、共通する成功の背景の分析に約300ページが割かれています。そして後半約100ページで、GAFAの次となる企業や今後の世界の展望について考察しています。
個人的にはGAFA以後について考察する後半が面白いと感じたので、前半のGAFAの解説のキーワードを拾いつつ後半の考察をまとめておきます。
覇権の8遺伝子
GAFAに共通する8つの要素をまとめています。
- 商品の差別化
- ビジョンへの投資
- 世界展開
- 好感度
- 垂直統合
- AI
- キャリアの箔づけ
- 地の利
8つの独立した要素というよりはそれぞれ関連したものであり、特に商品の差別化はそれ以外の7つの要素によって他社が真似できない差別化に繋がっていると思います。AIはその技術というよりそれを支えるデータが最強の武器であると述べられています。また、キャリアの箔づけとはトップクラスの人材を集める力のことです。GAFAのいずれかに所属することでエリートの仲間入りができるという状態を作ることで超優秀な人材を集め続けることができます。地の利は優秀な人材を排出する大学など、人材集めに適した都市を抑えていることです。
個人が成功するために必要な内面的要素
GAFA「以後」の世界は、勝者総取りの経済の影響もあって超優秀な人間にとっては最高だが平凡な人間にとっては最悪であると著者は述べています。そんな世界で個人が成功するためには次のような内面的要素が重要であると説明しています。20項目以上ありましたがそのうち10項目をピックアップしておきます。
心理的成熟
デジタル時代の労働者は数多くの関係者に対し、1日の間にさまざまな役割をこなさなければならないことが多い。そのような状況では、成熟した人間のほうが有利だ。
近年取り上げられているEQの重要性が説明されています。
好奇心
昨日うまくいっていたことが今日には時代遅れとなり、明日には忘れられる。まだ聞いたこともない新しい道具やテクノロジーに取って代わられるのだ。
また、単に好奇心を持つだけでなく、試してみたりアイデアを出せる行動力も重要であるとしています。
当事者意識
チームの誰よりも細部にこだわり、何をいつ、どのように終わらせる必要があるか検討する
人と同じように与えられたことだけをこなしていても成功しないということだと思います。前出の心理的成熟や好奇心を支える思考とも言えます。
大学に行く
人生において大学とはぜいたくな場所である。そこでは熱意あふれる聡明な若者たちや優れた頭脳を持つ学者たちに囲まれ、世界が与えてくれるチャンスについてじっくり考えることができる。
米国と日本では多少状況が違うとは思いますが、人生の中でも様々な人や世界に触れる機会と考える時間が得られる場であることは共通していると言えます。 また、大学以外の選択肢として「資格・証明」も挙げられています。
もし大学があなたの好みではないならば、平均時給1ドル30セントで働く世界中の70億人とは違っていることを証明するものを見つける必要がある
一昔前ほど言われなくなりましたが資格はいまだに個人の価値を表すものとして効果があり、今後もそれは変わらないでしょう。
何かをなしとげた経験
そもそも競争に参加していなければ、勝者にはなれない。勝つためにはまずフィールドに出て、リスクを背負い(顔を殴られるかもしれない)、ときには失敗の屈辱に耐えなければならない。それでこそ何かをなしとげられる。競争には勇敢さと、行動する意思が必要だ。
競争社会である以上は何かをなしとげようと挑戦したことがあるかどうかは大きな違いがあります。
都市に出よ
富、情報、権力、そしてチャンスは都市に集中している。イノベーションは多くのアイデアが集まるところで起こり、進歩は人間の直接の交わりから生じる。
ネットの普及によって分散すると思われていましたが、現状はむしろ都市に集中しています。都市であればどこでも良いということではなく、GAFAが地の利を抑えているように、自分の成功に必要なものが集まる場所にアクセスできる状態を作ることが大事ということだと思います。
自分のキャリアをよく見せる
よい仕事をしても、それを宣伝して自分のものだと主張しないと、正当な報酬は得られない
そもそも特定の個人の成果を知る機会は多くないので、自分を宣伝するメディアを見つけておくべきと述べています。大統領ですらSNSで発信する時代ですし、ほとんどの著名人が何らかの発信手段を持っています。
株と計画
現金の報酬は生活水準を上げることはできるが、生活水準が上がるとそれ相応の生活をするためにお金が必要になるので財産は増えない。そのため報酬の一部を株で得られるようにすべきと述べています。
豊かな生活への計画には、収入以下の生活、そして収入を生む資産形成が必要である。豊かさとはいくら稼ぐかよりも、きちんと計画を立てることなのだ。
株が大事ということではなく、豊かさを得るために計画的に生活をするということです。
会社とは「連続的単婚」を心がける
離婚するのはかまわないが結婚している間は誠実に
転職は否定しないが、1つの所属先で集中して成果を出してから次のステップに進むということです。
頑強さ
体を健康に保つことができれば、うつになる可能性も低く、思考が明確になり、よく眠れ、未来の伴侶の選択肢も多くなる
心身ともに健康であれということです。ほとんどの経営者は定期的に運動をしているとも書かれています。
書籍について書かれている以下のサイトの記事も参考になります。
【読書メモ】未来に先回りする思考法
- 作者: 佐藤航陽
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2015/08/27
- メディア: Kindle版
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メタップス創業者の佐藤 航陽氏による書籍です。
エンジニアとしてどんな技術に投資するか、IT企業のマネージャとして組織をどんな方向に導くか、という課題に対してヒントを与えてくれる内容だと思いました。著者はこの書籍について次のように述べています。
本書は、世界中で、ビジネスの最前線に立ち試行錯誤を繰り返した末に得られた、「社会の変化を一本の線として考えるための原理原則」をまとめたものです。
変化を線で捉える
長期的に見れば、人間が想像できるようなアイデアは、そのほとんどが実現されます。結局、アイデア自体は、将来における「点」なのです。そのときは突拍子もないように思えても、時間の経過とともに、技術面や価格面でのブレイクスルーによってピースが埋まっていき、いつかどこかで進化の「線」に取り込まれます。
テクノロジーはそれが発現された部分だけを見れば「点」ですが、その背後には点と点をつなぐ線となる変化が起こっています。これはジョブズが言った「点と点をつなぐ」という有名な言葉にも通じる考え方なのかもしれないと思いました。
テクノロジーの3つの「本質」
- 人間を拡張するものであること
- いずれ人間を教育しはじめること
- 掌(てのひら)からはじまり、宇宙へと広がっていくこと
すべてのテクノロジーは人間が直接的に行う何らかの行動を拡張する形で浸透してきました。そしてそのテクノロジーはいずれ人間の精神や行動を縛るようになり、いずれはその存在感を感じなくなるほど日常の当たり前のものになるということです。
未来に先回りする思考法
未来に先回りするために重要なのは次の3つであるとしています。
テクノロジーを「知る」4つの段階
- 使える
- ポテンシャルがわかる
- なぜできたのかを原理から理解している
- 実際の作り方がわかる
著者は、重要なのは3の「原理」を知っているかどうかであるとしています。
物事の原理を知り、より効率的な別のアプローチも思いつき、技術的にもそれが実現可能であると理解できれば、最後は適切なタイミングにアクションを起こすだけです。そして、そのためには、必要なリソースを調達する必要があります。実は、これが最も難しいのです。
テクノロジーの原理を知ることでそのテクノロジーが目的としている線の先を知ることができます。そのうえで現在地を理解し、その線の先にある場所へ適切なタイミングでアクションを起こすということです。
ロジカルシンキングの弱点
著者は未来に先回りするうえでロジカルに考えすぎることの危険性を指摘しています。
将来的に新しい情報が得られるであろうことを考慮に入れた上で、一定の論理的な矛盾や不確実性をあえて許容しながら意思決定を行うことが、未来へ先回りするための近道です。
著者のブログでも書かれていました。
論理的に説明できるようになってから事を起こすようでは未来に先回りしているとは言えないということだと思います。
Googleの20%ルールはリスクヘッジ
ロジカルシンキングの弱点という話にも関連した、本書の中でも特に面白い発想だと感じたのがこの考え方です。
どれだけ多くの経験を積んでも、この世界の「不確実性」からは逃れることができない、いっそのことそのリスクも理解した上で組織をつくるという理詰めの選択の結果が、あの「20%ルール」なのです。 本当に合理的な判断とは、自分が完全に合理的な判断ができるという考えを諦めて、不確実性を受け入れつつ、意思決定を行うことです。
未来にどんなテクノロジーが浸透するか、Googleの経営者ですら分からないので、経営的に見れば一定の非合理的な20%の遊びをもたせることで、リスクヘッジしているという考え方です。
テクノロジーの原理を知り、その現在地や将来性をロジカルに語れることは大事ですが、未来に先回りしてテクノロジーの進化に乗り遅れないためには、その将来を眺めつつ時には非合理的とも思える意思決定を行う大胆さも必要であるということです。言うは易く行うは難しではありますが、そこは本書を深く読むことで何らかのヒントが得られるかもしれませんので、興味のあるかたはぜひ。
【勉強会メモ】スクラム道関西 オープン・ジャム
- 日時:2019/10/08(火) 19:30 〜 21:30
- 場所:株式会社ラクス 大阪オフィス
自社にお招きして久々にスクラム道関西のオープンジャムに参加しました。自分が参加したテーマのメモです。
WFのチームがスクラム開発をゆるく始めるには?
- アジャイルのプラクティスを取り入れるのではなくスクラムをやると言うならゆるく始めるとか無い。忠実にスクラムやるべき(一理ある)
- スクラムをやることよりチームの関係性や心理的安全性が大事かも(わかるけどなぜかという理由まで踏み込めず)
- 何から始めるにしてもプロダクトとしての目標やマイルストーンはスクラムでも必要
- よくある事例はふりかえりから始める
- スプリント計画は最初はタスクの分割や見積もりが難しい
- 朝会(デイリースクラム)は比較的ゆるく始めやすい
- お互いの情報共有や助け合ってタスクを進める状況を作れる
- はじめは時間がかかる(時間内に終わらない)
- プランニングは直近の1スプリントにやることを考える意識付けができる
- 見積もりは時間がかかる
- 適切なサイズのタスクに分解するのは慣れが必要
全員参加のスプリント計画は非スクラムのチームから見ると無駄と思われる
- 聞いているだけ、しゃべらない参加者も内容を理解する場にはなる
- 参加しないとWFのトップダウン的な状態は変わらない
- 聞いていなかったり、参加姿勢が見られない場合は別問題
- チーム力が偏っているならテックリード的な人が計画を取り仕切ることにはなる
- テックリードによるチームの教育的な効果はある
- 他の人がどういう姿勢で参加するかは大事
- 参加者に無駄だと思っている人がいるのは問題
- スクラムマスターが価値ある場になるように支援する
- 未成熟なチームであればスクラムマスターの働きかけは重要
LeSSのやりかた
- 自己組織化された最高のチームを目指せる
- 1つのチームを成熟させてから分割していくのがセオリー
- 1つのバックログから各チームが取っていくので技術的に障壁がないチームになっていないと難しい
- メンバーの技術スキルに偏りがあるならNexusの選択肢もある
- Nexus統合チームが全体を支援する
- まだ新しいチームでメンバーが8人いてコミュニケーションコストが大きいので分割したいという課題感がきっかけ
- LeSSで小さいチームにすることで少しずつ属人化を減らすことはできそう
- チームをまたいだコミュニケーションはなるべく減らす
- スクラムマスターの支援が重要
社内勉強会を盛り上げたい
- 外部の人を呼ぶ
- 社外のイベントでつながってお願いする
- 社外の勉強会に行ってきたことを紹介する
- 社内のレジェンドを呼んで話をしてもらう
- 発表してもらいやすいテーマを決めて各部署に依頼する
- トラブル事例
- 新機能の紹介
- LT大会をする
- 発表者や運営メンバーを入れ替える(形骸化や固定化を解消して新鮮さを出す)
- 発表で専門用語をなるべく使わない(参加者の心理的障壁を下げる)
- 参加する人の気持ち(モチベーション)は大事
- 社内で仲間探しをする
【読書メモ】SPRINT 最速仕事術
SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法
- 作者: ジェイク・ナップ,ジョン・ゼラツキー,ブレイデン・コウィッツ,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/04/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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スプリントはGoogleで考案された製品やサービスのプロトタイプをつくって検証する手法です。5日間で問題を分析し、仮説を立ててプロトタイプを作り、ユーザーテストを行って検証までを完了させます。
デザイン思考をベースにスプリントを取り入れた「デザインスプリント」という手法もあり、日本でもいくつも事例が共有されています。
スクラム開発のスプリントとは直接的には関係ないものの、一通り読んでみると考え方や手法の似ている面も多々あるのでアジャイルなソフトウェア開発の文化の中から生み出されたものではないかと想像しています。残念なのは書籍のタイトルが自己啓発本っぽくて書籍の内容と合っていないことです(アマゾンのレビューなどでも書かれていますが)。書籍の中でアイデアを具体化する際に言語化やキャッチーなタイトルをつけることの重要性が語られているだけになおさら残念さがあります(訳の問題かもしれませんが)。
改めて整理するとスプリントは最速でサービスを生み出す方法であり、文中で解説されている詳細な手順は全てスピード重視でアウトプットの質を高めることに集中して作り出されていると感じました。手法の詳細は本にまとまっていますしネット上にも情報がたくさんあるので、ここではスプリントの概要とともに、「スピード重視でアウトプットの質を高める」ための考え方や手法の部分をピックアップしてまとめておきます。このピックアップした部分に関してはサービスを生み出す以外の仕事でも大事なことであり、サブタイトルにある「あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法」のヒントになると思います。
スプリントとは
製品やサービスを生み出す手法であることは冒頭に書いた通りです。ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェア、マーケティング戦略など、どんなものにも適用できるとされています。通常の業務やブレーンストーミングの手法との違いは以下のように説明されています。
集団ブレーンストーミングとはちがい、1人でアイデアを練る時間があった。(中略) もう一つの重要な要素は、人だ。エンジニア、プロダクトマネージャ、デザイナーの全員が同じ部屋にそろい、それぞれが問題の担当部分にとりくみ、お互いの質問に進んで答えた。
月曜にスタートし、金曜に検証を完了させるまでの日ごとの流れは以下の通り。
月曜日に問題を洗い出して、どの重要部分に照準を合わせるかを決める。
火曜日に多くのソリューションを紙にスケッチする。
水曜日に最高のソリューションを選ぶという困難な決定を下し、アイデアを検証可能な仮説のかたちに変える。
木曜日にリアルなプロトタイプを完成させる。
金曜日に本物の生身の人間でそれをテストする。
中断が生産性を急落させている
5日連続でスケジュールを確保することの重要性を次のように説明しています。
週末をはさむと連続性が失われ、注意散漫と先延ばしが忍び寄ってきた。また仕事に時間をかければかけるほど、自分のアイデアに愛着を感じ、その分同僚や顧客から学ぼうという意欲が失せた。
時間を分断して確保すると先延ばしすることになり、時間をかけすぎると客観的な判断ができなくなるということです。売れるかどうかわからないサービスを生み出す段階では特に重要なことだと思いますが、普段の仕事でも同様のことは言えます。WIPを減らして重要なものから順番に終わらせていくことはアジャイルでも重要です。
長期目標を決める
1週間で結論を出すとはいえ、最初に何のためにどんな目標のもとでその1週間に注力するかを明確にし、チームですり合わせておくことが重要だとしています。
長期目標は、チームの方針と野心を反映したものでなくてはいけない。
これはアジャイルのインセプションデッキと同様の考え方だと思います。短期集中型で取り組むからこそ、長期目標への意識も忘れてはいけません。
プロトタイプはリアルに見えなくてはいけない
最速で検証することが重要なので、プロトタイプも最低限で良いのでは?と思いがちですが、リアルさが足りないと本当の反応が引き出せないとしています。
顧客の「反応」は千金に値するが、「意見」となると何の価値もない
意見ではなく事実を元に分析するのはPDCAの基本です。少し話が逸れますが、ソフトウェア開発でも設計段階で画面のモックなどを作る時に雑に作ってしまい本来確認したいこととは別の議論が起きてしまうことが時々あります(例えば、電話番号欄にカタカナが表示された画面イメージを提示してしまうなど)。個人の意見がフィードバックされないように、適度にリアルなものを見せることは通常の仕事の上でも重要です。
魔法の数「5」
過去に行った83の製品調査を分析し、インタビューの回数と発見された問題の数をグラフにプロットしてみた。(中略)問題の85%が、たった5人のインタビューで発見されていたのだ。
インタビューする顧客は5人集めれば十分であるということです。
同じ調査でテストする人数を5人より増やしても、追加のメリットはほとんどなく、ROI(投資対効果)は急低下する。(中略)
残りの15%を発見するために多大な時間を費やすより、発見された85%の問題を改善してから、再びテストを行うほうがよい
この知見も別の場面でも応用できると感じました。何か新しいことを始める前になるべく多くの人に意見を求めることはよくあります。ひとまず5人集めて検証することで仮説検証でそれなりの精度が出せるということは知っておくと役立ちそうです。
スプリントで使うツールと手法
書籍の中で紹介されている手法やツールもまた、サービスを生み出す以外の仕事でも役立ちそうなものがありました。
ホワイトボード(とふせん)
デジタルな時代であってもこれらのアナログなツールが大切な理由について次のように述べています。
人間の短期記憶はあまりよくないが、空間記憶は驚異的だ。 部屋全体を、チームの「共通の脳」に見立てるのだ。
デジタルは情報の蓄積には適していますが、クリエイティブな仕事の質を高めるには人間のパフォーマンスを上げる手段のほうが良いということだと思います。
タイムタイマー
これもまたアナログなツールです。本書では「魔法の時計」と表現して4ページかけて紹介されています。
スプリントの手法には8分や10分、20分とサイズの違う手法がたくさん出てきます。そのため、それぞれの手法に必要な時間を即座に設定できる全員が見えるタイマーは活用メリットが大きいのだと思います。それくらい時間と質にこだわることが求められているとも言えます。
4段階スケッチ
アイデアを具体化する「スケッチ」の中で紹介されている4段階の手法です。
- メモ:重要な情報を収集する(20分)
- アイデア:大まかなソリューションを走り書きする(20分)
- すばやくバリエーションを生み出す(8分)
- 詳細を考える(30分+α)
合計すると1時間半ほどです。アイデアを出して何かを決める普段の仕事でも、60分の会議を何回か行い、アイデア出しを宿題にして、次の回で具体化して…とやるよりもこのようなやり方を試してみると良いかもしれません。
くっつく決定
くっつくもの(テープとかふせんとかシールのこと)を使う5段階のプロセスです。
- 美術館:ソリューションスケッチをマスキングテープで壁に貼り付ける
- ヒートマップ:黙ってソリューションを見て回り、おもしろいと思った部分にドットシールをはドットシールを貼っていく
- スピード品評:それぞれのソリューションの見どころをすばやく話し合い、ビッグアイデアをふせんに書き出す
- 模擬投票:各自がソリューションを一つ選び、シールで投票する。
- スーパー投票:決定者がこれまたシールで最終決定を下す。
素早く質の高い意思決定をすることも組織として重要なスキルです。どんな仕事でも何らかの形で決定しなければ実行することができませんが、決定の合意形成や納得感は実行にも影響を与えるため、それらを両立させる手法として活用できる場面はありそうです。
参考サイト