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【読書メモ】エンジニアリング組織論への招待

年末にじっくり読もうと思ったらじっくり読みすぎて年が明けてしまい2019年最初の読書メモとなりました。近々発表のある ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書 大賞 2019 の参考本にもなっていますが、2018年に「エンジニアリングマネジメント」が話題になったのはこの書籍がきっかけと言えるのではないでしょうか。

マネジメントを目指すエンジニアはもちろん、技術を追求するエンジニアもビジネスにしっかり貢献したい意識を持っているなら読むべき書籍です。読み進めるにあたってのポイントとより理解を深めるための補足情報をまとめておきます。

エンジニアリング組織論とは

この本のテーマはタイトルよりも副題の「不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング」のほうがイメージしやすいかもしれません。冒頭の「はじめに」の中でも著者が次のように述べています。

「不確実性に向き合う」というたった1つの原則から、エンジニアリング問題の解決方法を体系的に捉える組織論です。

不確実性とは

本書ではエンジニアリングとは「不確実性の削減」であるとしています。不確実性には「未来」と「他人」に関するものがあり、それぞれを「環境不確実性」、「通信不確実性」と分類しています。環境不確実性はさらに「目的不確実性」と「方法不確実性」に分類されます。

  • 未来:環境不確実性
    • 目的不確実性
    • 方法不確実性
  • 他人:通信不確実性

これらの不確実性に対して、人、チーム、組織のそれぞれでどのようにアプローチしていくかというのが本書のテーマです。そのため、1章ではまず人の思考にスポットをあてて不確実性について考察します。2章ではその延長として個人にスポットをあてたメンタリングについて書かれています。ここまではマネジメントの要素は少なく、多くのエンジニアが読みやすい内容だと思います。例えば、先輩として後輩エンジニアと接していて「なんかうまく伝えられていないな」と感じたことがある人も、ぜひ読んでみると良いと思います。

3章と4章では範囲を広げてチームにおける不確実性の削減についてアジャイル開発の観点から論じています。そして最後の5章ではさらに範囲を広げて本のタイトルにもつながる組織における不確実性の削減について、アーキテクチャの観点で論じています。後半のアジャイルアーキテクチャについてはマネジメントの視点が強く、アジャイルなプラクティスやアーキテクトのノウハウの話は出てきません。

思考と組織のリファクタリングとは

本書で述べられるリファクタリングとはソースコードをきれいにする事ではなく、人の思考や組織の構造をきれいにすることです。コードをリファクタリングするために様々な技術的知識が必要なように、人の思考や組織の構造をリファクタリングするためにも様々な知識が必要です。エンジニアとして理解しているつもりだった技術知識を他人に説明してみるとうまく説明できなくて理解不足を感じた経験は誰もがあると思いますが、これが人の思考や組織の構造に対してとなるとより大きな影響と責任を伴うことになります。この本の各章で様々な理論や手法がその背景とともに紹介されているのはそのためだと思います。理論や手法には必ず目的や背景があり、それらを正しく理解しておくことはマネジメントにおいても非常に重要なのです。そして、その対象がエンジニアやエンジニアの組織であれば理論や手法はエンジニアリングと関連付けて使うことになります。つまりエンジニアリングマネジメントにおけるエンジニアリングとマネジメントはそれぞれ別の手法でありながら両方切り離すことができない手法でもあります。

6章に入る構想だった組織とアーキテクチャの話

著者が Engineering Manager Advent Calendar 2018 - Qiita の投稿で書いている記事を読むとさらに本書の理解を深めることができます。

qiita.com

この記事に書いている以下の一文こそ、本書の最も重要なテーマだと思います。

ソフトウェアサービスとは、ある機能を提供しているのではなく、継続的にその目的を果たしつづける組織やチーム文化を提供しているビジネスと言い換えることができるのです。

経営・マネジメント用語の補足

5章ではエンジニアの書籍ではあまり使われないものの、経営やマネジメントの書籍では当たり前に使われる用語が出てきます。もしこれらの用語がピンとこなかった場合は、知識を補っておいたほうがより理解を深めることができるでしょう。いずれも用語の元となった書籍があります。ビジネス書としては古典的名著なので読んでおいても損はありません。

コア・コンピタンス/ケイパビリティ

コア・コンピタンス

ある企業の活動分野において「競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」の事

コアコンピタンス - Wikipedia

ケイパビリティ

企業や組織が得意とする組織的能力

ケイパビリティ - Wikipedia

kigyotv.jp

コア・コンピタンスはゲイリー・ハメルとプラハラードが書いた論文の中で使われ始めた言葉です。この2人が書いた「コア・コンピタンス経営」という書籍が出版されています。

コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)

コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)

バリューチェーン

バリューチェーンは価値連鎖と邦訳され、マイケル・ポーターが著書の「競争優位の戦略」で使った言葉です。企業内部の活動の連鎖に目を向けてそれぞれの活動がどれくらい価値を生み出しているかを分析することで、競合他社との競争優位性を見出す差別化戦略を見出すためのフレームワークです。

www.nri.com

原著は分厚く難解でハードルが高めですが解説書などの関連書籍もたくさん出版されています。

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

まとめ

個人的には3章4章を通じてスクラムは開発手法であると同時にマネジメント手法でもあるということを改めて認識することができたことが大きいです。エンジニアリングだけでなくマネジメントも不確実性を削減する手法だと思うので、その両方の手法を組み合わせたエンジニアリングマネジメントはIT技術を扱う企業において事業に貢献する重要なスキルであると思います。