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【読書メモ】学習意欲の心理学

学習意欲の心理学―自ら学ぶ子どもを育てる

学習意欲の心理学―自ら学ぶ子どもを育てる

最近はチームがより良い学習ループを回すための理論や知識を増やしたいと思っていて、人がどのように学習に向かうのかということに興味を持っています。この本は子供の教育に向けた心理学の本ですが、図書館でパラパラとめくってみたところ、子供の教育に限らず広い意味での学習に適用できそうな内容だったため読んでみることにしました。著者の 桜井茂男 氏は実際にその分野の第一人者ということもあり、様々な既知の理論をベースにしつつ独自に研究してきた知見なども交えて、人が学習に向かう意欲の仕組みをわかりやすく解説されています。もちろん、副題の通り子供の教育や、子供に限らず特定の個人の教育にも応用できる内容だと思います。

学習意欲のレベル

学習意欲は次の順番を意識して段階的にレベルを上げていくのが良いとされている。

  1. 無気力な段階
  2. 外発的な学習意欲
  3. 内発的な学習意欲

学習意欲の発現プロセス

学習意欲のみなもとは以下の3つで、「有能感」と「自己決定感」は「他者受容感」によっても育てられる。育てる側に見守られているという受容感が「自分はできるんだ」とか「自分でやってみよう」という意欲に結びつく。

  • 有能感
  • 自己決定感
  • 他者受容感

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図:内発的学習意欲の発現プロセス

「無気力」と「外発的な学習意欲」の段階では「有能感」と「自己決定感」はまだ未発達の状態なので、まずは無気力な状態から抜け出せるように他者受容感を与え、そこから外発的な学習意欲を与えて徐々に「有能感」と「自己決定感」を育てていく。外発的な動機づけによって「知的好奇心」や「達成」「挑戦」の行動が現れるように誘導し、「楽しさ」「満足」が得られることで内発的学習意欲のみなもとにフィードバックされて学習ループが回るようになる。

外的報酬

「ごほうび」、「称賛」、「見守る(外的報酬を与えない)」ことのどれをとっても学習者への与え方に留意する必要がある。

ごほうび

  • 自分の行動が他者によってコントロールされている状態
  • ごほうびを期待している
  • 内発的な学習意欲は低下する⇒アンダーマイニング効果

ごほうびは外発的な学習意欲に支えられている段階では効果があるが、内発的な学習意欲は低下するリスクがあるので与え方に注意する必要がある。

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特に、先生との人間関係が良好な生徒は学習意欲の低下が少なかったとのことで、ごほうびを与える人との人間関係も行動の差異につながるようである。

称賛

  • 直接的には内発的な学習意欲に対してマイナスの効果はない
  • 間接的には称賛を与えてくれた人との人間関係をとおしてプラスの効果がある

見守る

  • 内発的な学習状況が広くどの学習領域にもみられる子どもには、学習ができたときに自分で自分に報酬を与える心的メカニズムができている

人間関係

どのような外的報酬もその効果は与える人と与えられる人の人間関係に大きく依存している

前述の通り学習意欲のベースとして「他者受容感」は必要なため、見守る場合も環境は重要であると言える。つまり、外的報酬という手段はいずれの場合も人間関係を踏まえておく必要がある。

内発的な学習意欲の育てかた

内発的な学習意欲の行動が芽生える段階まで来ると、次は「有能感」と「自己決定感」を育てる段階になる。実際にはこの段階で育てる側がいかにうまくアプローチできるかが育成のキモであると思います。

有能感を育てる

  1. 応答的な環境を用意する
    • 有能感の基礎を形成する
    • 学習意欲の基礎となる人への信頼感も培う
  2. 学習内容を理解させる
    • 理解をうながす
    • 積み重ねの教育
  3. 自信をもたせる
    • 成功体験
    • 称賛
    • 期待
    • 適度な外的報酬
  4. 努力ができるように援助する
  5. 適切な評価を用いる
    • 有能感を高める評価
    • 絶対評価と個人内評価

自己決定感を育てる

自ら好んで自己決定すること、すなわち自発性を育てる。

  1. できるだけ決定をまかせる
  2. 決定したことがうまく運ぶようにお膳立てする
  3. 過干渉、過保護にならない
  4. 外的な報酬に依存させない

モチベーション理論の理解へ

最近は「モチベーション」という言葉が当たり前のように使われていて、様々な書籍や情報が溢れているものの、知識や理論のほうが先行していて効果に結びついていないケースも多いと感じているので、このような心理学の理論も踏まえることで理解を深めて効果的な実践に結び付けられるのではないかと感じました。