【読書メモ】人を動かすファシリテーション思考
- 作者:草地真
- 出版社/メーカー: ぱる出版
- 発売日: 2017/05/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
会議を取りまとめたり、音頭を取って議論を促し、結論をまとめて共有するスキルというのはビジネスの基本スキルですが、そのスキルを学んだり基礎を身につける機会は意外と少なく、個人の経験蓄積や努力に委ねられている部分が大きいのではないでしょうか。とはいえ、仕事の経験を積んでいくうちに誰しも意見のとりまとめや改善の推進役を担うことがあるはずです。そのような機会のために、『ファシリテーション思考』はとても役立ちそうです。
本書はビジネスシーンだけに限定せず汎用的な基礎部分がわかりやすくまとまっています。自身が基本的な知識とスキルをきちんと学ぶのはもちろん、上司がそのような人材を育てるためにも読んでおくと良い書籍だと思います。私もチームのメンバーに紹介していきたいなと思いました。
具体的な事例やテクニックは本書を読んで頂くとして、ここではファシリテーションとはどういうもので、ファシリテーターはどういう役割を意識し、どういうスキルを持っているべきかという点をまとめておきます。
ファシリテーションとは
英語の直訳は下記。
facilitate
促進する、助長する、事を容易にする、楽にする
会議や取り組みをゴールに導くための支援をするのがファシリテーションです。ファシリテーションの3つの特徴を以下のように述べています。
- 対等な関係のメンバーによる主体的な参画
- ファシリテーターの中立性
- プロセスの共有による納得と当事者意識
ファシリテーション自体がゴールや変化への責任やアクションの一部を担うものでもありません。ファシリテーションの存在に関わらず参加者がやることは変わらないわけですが、参加者の主体性や当事者意識を生み出す支援をするのがファシリテーションです。
ファシリテーターがやること
本書には以下のようなことをやると述べられています。一言で述べるなら、最終的に「人が動く」を生み出すのがファシリテーターのミッションであると言えます。
- 進め方を考える
- 問題を”見える化”する
- いつまでに、何を、どこまで進めるか、を決める
- 目的・ゴール・進め方を明確にする
- 人が動くようにする
司会者とファシリテーターは違う
中立的な立場という点は司会者も同じですが、司会者とは違う点を次のように述べています。
中立的な立場でチームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるように支援する(中略)
いわばテーマの中身ではなく、参加者の活動が容易に行えるように、プロセスの舵取りを行う
ファシリテーターとは次のような人であると述べられています。
- 場にコミットするが内容やあり方にはコミットしない人
- 「場」そのものをホールドする人
つまり、中身に関与せず参加者を中身に向かわせる人です。ただし、中身に関与しないということは中身を知らなくても良いという意味ではありません。
「中身に関与しない」ということは、「中身を知らない」ということではないのです。むしろファシリテーターは、何かのテーマでワークショップを開催することが決まったら、その分野について知り得ることはすべて調べた上で、ワークショップを組み立てなければなりません。
中身を知らずに参加者を支援し、その場をホールドすることはできません。そういう意味では最も中身を知っているくらいのほうが望ましいのです。
ファシリテーターに求められる力
求められる10の力が紹介されています。
- 場をつくる力(どこでやるか?席や配置など)
- 場をデザインする力(アジェンダ、ツール、タイムキーピング)
- 先を読む力(洞察力と予見力)
- 聴く力・聞く力(傾聴力、質問力)
- 伝える力(相手のアタマの中身を想像しながら話を組み立てる、相手のアタマの中の、”現在地”を確認しながら話を進める)
- 引き出す力(参加者の総意、方向性を引き出す)
- 書く力=見える化する力
- まとめる力
- 共有する力
- 動かす力
こうして改めて見ると必要なスキルは多岐にわたります。中身に関与しないからといって楽な役割ではありません。また、これらは他の様々な場面でも応用できるスキルばかりです。10の力はそれぞれのスキルに特化した書籍などもたくさん出ているので、全体像を押さえるだけでなく10の力のそれぞれを極めていこうとするとファシリテーションというのはとても奥の深いスキルであると言えます。
参考
【読書メモ】「いい質問」が人を動かす
著者は弁護士でTV出演などもされている 谷原誠 氏です。弁護士として裁判に勝つことだけでなく、依頼者が本当に求めていることを理解するために質問することの重要性に気づいたのが、「いい質問」を追求するきっかけのようです。
私は質問をして依頼者を知り、相手を知り、解決すべき結論を知らなければならなかったのに、質問をしないばかりに、全て知らないまま、独りよがりの裁判を続けていたのです。
質問には2つの機能があり、いい質問を使いこなすことで6つの力が得られると述べられています。
質問の2つの機能
質問をされると、①思考し、②答えてしまう
質問によって得られる6つの力
以下の6つの力について1章ずつに分けて説明されています。
- 思いのままに情報を得る
- 人に好かれる
- 人をその気にさせる
- 人を育てる
- 議論に強くなる
- 自分をコントロールする
この6つの力のどれを目的とし、適切な相手に適切なタイミングで、瞬時に適切な言葉を選んで質問するのが「いい質問」だとされています。
6つの力のうち、1〜3は質問の基本テクニック、4〜6はビジネスの現場での応用が期待できる力です。そのため、1〜3についてはオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの違いであったり、ネガティブな質問をポジティブに変換するテクニックであったり、感情に訴えかけてから理論的な質問をするテクニックなど、他の書籍でも取り上げられるようなテクニックが紹介されています。そして、後半の4〜6については基本テクニックを応用したより実践的なテクニックが解説されています。
自分をコントロールする質問力
他者へ良い質問ができるようになると、その質問力を自分に向けて自問自答することで自身の成長にも役立てることができます。これが6つ目の力です。これが質問力の集大成として目指すべきスキルだと感じたので紹介しておきます。
7つのフィードバッククエスチョン
自分自身で振り返って行動を変えるための質問テクニックです。これはまさにふりかえりやPDCAで使われているテクニックであると感じました。
- よくできた点は何か
- それはなぜうまくいったのか
- 今後も続けたほうがよいことは何か
- うまくいかなかった点は何か
- それはなぜうまくいかなかったのか
- 今後やめた方がよいことは何か
- 今後改善すべき点はどこか
問題解決のための8つのクエスチョン
問題に直面しても諦めず前向きに行動していくための質問テクニックです。
- 視点を変えた場合、この問題のよい面は何か?
- この問題を解決したら、どのような力が身に付くか?
- 解決するには、どのような方法があるか?
- 解決するために自分がしなければならないことは何か?
- そのために今始めなければならないことは何か?
- 解決の過程で、自分が代償として差し出さなければならないことは何か?
- その代償を差し出したとしても、この問題は解決した方がよいか?
- この問題を解決するプロセスを楽しめるようにするには、どのように考えたらよいか?
この質問要素には以前読んだ経験学習のリフレクション、ストレッチ、エンジョイメントの要素が含まれていると感じました。
今すぐ自分を変えるための質問ワーク
本書の一番最後に、10個の質問に対する自分の答えを考えてみましょうという質問ワークがあります。一通り読んで、最後にこれをやってみると、なるほど、行動を起こさなければ/変えなければと思わされます。
- 1年前に戻れるとしたら、まず何をしますか?
- 会社(家族)があなたに求めている役割はどんなことでしょうか?
- あなたがその役割を果たすために、今すぐ始められることは何ですか?
- あなたを元気にしてくれる言葉は何ですか?
- あなたのマイナスの口癖は何ですか?
- 自分の周囲で変えたいことは何ですか?
- あなたが「やればできるけど、やらないだけ」と思っていることは何ですか?
- あなたが妻(夫)や恋人に怒りを感じるのは、どんなときですか?
- あなたが目標を達成するために何かを犠牲にしなければならないとしたら、何でしょうか。
- 本書のどの部分を、どのような場面で、どのように活用するつもりですか?
参考
【読書メモ】異文化理解力
仕事でオフショア開発をやっている関係で紹介された本です。過去の仕事も含めて異文化に触れる機会はわりと経験しているつもりでいましたが、この本を読んでみると異文化についてまだまだ理解できていないことが多いと痛感しました。
また、本書で出てくるカルチャーマップという各国の文化をマッピングしたものを見ると日本が世界の中でもわりと極端な領域に配置されている事が多く、世界から見れば特異な国であると感じました。本書でも触れられていますが、異文化理解力の難しいところは自分の文化内ではあまりにも当たり前のことなので、異文化間の問題に気づけないところにあります。知っていればすぐに気づけることが、理解不足のために気づくことすらできず、不安やストレスを抱えて仕事を続けることにもなりかねません。そう考えれば異文化理解力というのはグローバルな環境で仕事をするためには必須のスキルといえます。
大都市のコンビニなどのように日本人以外と接する機会は増えてきていますが、同僚や取引相手が日本人でないことが当たり前となる未来もそう遠くないかもしれません。そんな未来に向けて異文化理解力というスキルを身につけるためには必須の教科書的な本だといえます。
カルチャーマップの8つの指標
著者は8つの指標それぞれでカルチャーマップをまとめています。指標が8つあるのは、例えば次のようなケースがあるためです。
率直にものを言うローコンテクストな文化のいくつかは、ネガティブな批判を伝える際は遠回しで間接的に言うことがあり、反対に普段遠回しにものを言う文化のいくつかは相手の欠点をはっきりと包み隠さず伝えることがある
書籍では前者はアメリカ、後者はフランスと述べられています。つまり、ある指標では同レベルに分類されている文化間であっても、別の指標では全く違うことがあります。グローバルなマネジメントにおいては、これらの指標を念頭に置いて相手の文化と場面に応じた接し方をすることが求められます。
1. コミュニケーション(ローコンテクストvsハイコンテクスト)
ローコンテクストは伝達に多くの言葉を要するのに対して、ハイコンテクストは少ない言葉で行間を読みます。日本はもちろんハイコンテクスト側になります。どちら寄りの文化であるかは歴史的背景も関係していると書かれています。
歴史の長さと民族の単一性の度合いがコミュニケーションのあり方に影響を与えている
同じ思想を持つ民族が長く一緒にいれば多くの言葉をかわさなくても伝わりやすいということです。
2. 評価(直接的なネガティブ・フィードバックvs間接的なネガティブ・フィードバック)
冒頭で引用したアメリカとフランスの事例のように、その人の能力や業績の評価をフィードバックする際にネガティブな内容をストレートに伝えるかどうかは、コミュニケーションの指標とは違った配慮が必要になります。直接的なほうが好まれる文化で間接的なフィードバックを行うと、回りくどい、わかりにくいと受け取られて信頼を損なう可能性があるため、間接的であるほうが安全というわけではありません。また、直接的であればどんなことを言っても良いわけではなく、無礼なフィードバックはさらに事態を悪くします。
3. 説得(原理優先vs応用優先)
一般論や概念をしっかり掘り下げてから結論を出すのかの度合いが原理優先です。ドイツでは裏付けとなる理論をしっかり説明してから結論を述べるのに対して、アメリカでは結論ありきで応用例を次々とあたっていきます。グローバルなチームの場合は理論をしっかり説明してから応用例に入るなど両方を取り入れるプロセスが必要になりますが、それによってイノベーションを生み出せます。
4. リード(平等主義vs階層主義)
平等主義の文化では職務上の階級は役割であり、上長であっても一人の人間として平等に接することが好まれます。階層主義では職務上の階級を意識した接し方が必要になります。業務上必要であっても階級を超えた相手に直接コンタクト取るようなことは批判の対象となります。平等主義の文化では職務上の階級を意識したふるまいや行動は逆に信頼を失います。実際には両方の文化を持つグローバルチームの場合、どちらもマネジメントできる柔軟性を身につけなければならないと述べられています。
5. 決断(合意志向vsトップダウン式)
物事を決めるときに全員で合意を取るか、責任者が鶴の一声で決めて進めるか、これもそれぞれの文化で逆の行動を取れば信頼を失います。前者であれば勝手に決める上司、後者では決められない上司ということになります。難しいのは両方の文化が混在したグローバルチームの場合です。合意のとり方をチームで決めておくことが良いとされています。
もしあなたが合意志向とトップダウン式文化の両方がいるグローバルチームと仕事をするときは、連携の最初の段階で意思決定の方法をはっきりと話し合い合意をとろう。
ちなみに、ここでは日本の稟議システムが「階層主義かつ超合意主義」とやや皮肉とも取れる形で紹介されています。
6. 信頼(タスクベースvs関係ベース)
仕事は仕事として信頼を築くか、プライベートで食事を共にしたり家族ぐるみで付き合うなどの関係を重視するかです。ここでも日本の飲みニケーションが紹介されていたりします(文化としては消えつつある気もしますが)。
7. 見解の相違(対立型vs対立回避型)
対立意見を大切にするか、そうした対立は回避するかです。日本はもちろん対立回避型です。面子を重視する文化の場合は対立意見が出ることが面子を失うとして嫌われますが、対立意見を出さないほうが失礼だとする文化もあります。このあたりは階層主義とも関連しているかもしれません。
8. スケジューリング(直接的な時間vs柔軟な時間)
簡単に言うと時間に厳しいかどうかですが、何に価値を置くかという視点で捉えています。著者の事例として、講演時間をきっちり守る文化もあれば、時間だからと質問を打ち切るよりも時間を延ばしてでも質問を受け付けるほうが良い文化があることが述べられています。
参考
HENNGEという企業のインタビュー記事ですが、書籍内でも紹介されているカルチャーマップが紹介されています。
著者本人のYoutubeチャンネルでカルチャーマップについて語っている講演が紹介されています。
The Culture Map: The Future of Management
ハーバード・ビジネス・レビューでの著者の紹介記事です。ビジネス視点で異文化マネジメントの重要性が書かれています。
2019年のアウトプットをふりかえる
2019年大晦日なので1年をふりかえりたいと思います。 本当はもう少し早く記事を書く予定でしたが、毎年使っているブログ投稿数の集計に使うPythonのスクリプトが動かなくなってしまいこのタイミングになっていまいました。普段からPC環境を整備しておくことの大切さを改めて感じている2019年末です…
わざわざ年の瀬間際にこのブログの需要があるかわかりませんが、自分自身の記録のためでもあるので投稿しておきます。もし大晦日に読んでもらえたならビールでも飲みながら気軽に読んで頂ければと思います。
なお、集計に使っているPythonスクリプトは こちら
去年のふりかえり記事は下記です。
73エントリー
この投稿を含めると2019年の投稿は73件でした。昨年は88件だったので15件減ってしまいました。今年は 自社の勉強会 に積極的に関わるようになり、毎月1回と3ヶ月に1回のイベントに参加したり、仕事関係でも チームでブログ連載 に取り組むなど、個人的な活動以外でのアウトプットが増えたことが1つの要因です。
内訳としては読書が39件で昨年の倍以上に増えたのに対し、勉強会が30件で昨年の半分に減りました。これはマネージャ業に取り組むため意識的にマネジメント系の書籍の読書量を増やしたためです。相対的に勉強会が減っているのはマネジメント業が忙しかったこともありますが、一番の要因は前述のとおり運営への参加などの組織的な関わりが増えた分、個人的なアウトプット機会が減っています。
2018年 | 2019年 | 2019年月平均 | |
---|---|---|---|
読書 | 18 | 39 | 3.25 |
勉強会 | 64 | 30 | 2.5 |
その他 | 6 | 4 | 0.25 |
合計 | 88 | 73 | 6 |
月平均で6件なので、週1回ぐらいは何らかのアウトプットをしていたと考えれば個人的に意識していた最低限のレベルはクリアできたと思っています。ちなみに読書のアウトプットは39件ですが、完読した書籍は50冊でした。こちらも読書量を増やすことを意識したからには超えたい目安だったのでクリアできて満足しています。
38カテゴリ
アウトプットしたカテゴリも57から38に減りました。前述のとおりマネジメント系のインプット・アウトプットに注力したことがWordCloudにも顕著に現れています。
年初のエントリーで、「近年生まれてきた新技術の多くがテクノロジー・パイプ・サイクルの幻滅期に入るので幅を広げるよりは生き残っている技術を選択していきたい」という方向性について触れましたが、この年初に考えた方向性は1年を通して変わらなかったと思います。
技術以外ではアジャイルやスクラムは世の中的にも盛り上がっている分野で、個人的にもこの1,2年取り組んでいることで去年よりやや減っているものの相変わらずアウトプットが多いカテゴリになっています。注力したマネジメント系についてもコーチングやマインドフルネスの分野は世の中的な流行の影響もあります。
2020年に向けて
これらを踏まえて2020年は次のようなアウトプット活動にしたいと考えています。
勉強会(特に技術系)の関わりを維持
勉強会で得られる生の情報や刺激は大切にしたいので最低でも現状は維持したいと考えています。何らかの形で週1回程度は関わりを持ち、そのうち半分はアウトプットに繋げるとすると月2〜3回ペースになるので、2019年の月平均2.5件のアウトプットは維持したいところです。ただ、このブログ以外にも会社のブログやQiitaでの投稿機会もあるので総合的な目安で考えています。
読書は60冊/月
今年はなんとか50冊読み切りましたが、まだまだ読書量は増やしたいと思っています。ただ、読書というのは同じ分野の本をまとめて数冊読むことも多いので、もう少し強弱をつけた読書とアウトプットの習慣をつけたいと思っています。例えば、興味を持った分野の本のうち1冊はじっくり読んでしっかりアウトプットし、関連して読む数冊は1冊目とは違う内容を中心にしっかり読んで、アウトプットもその部分中心にするという形です。具体的なバランス感覚はやりながら定着させたいと思います。
学習サイクルの定着化
昨年末のエントリーでは「Tryしたい技術テーマをバックログ化」したいと書きました。実際にはマネジメント系のテーマが増えたので技術テーマに限らず自分の学習テーマをバックログ化して取り組みました。OKRのプロセスやPDCA系の本なども参考にして毎週ふりかえりをしてみたりしましたが、まだスタイルは定着していません。テーマのバックログ化と毎週のふりかえりは一定の形になってきたので2020年もKeepしてスタイルを定着させたいと思います。2020年中にはそのスタイルを体系化してアウトプットできればと思っています。
2020年もよろしくお願いします
というわけで、これを書いている時点でもう数時間になってしまいましたが今年も無事にアウトプット活動を締めくくることができそうです。様々な形で関わってくださった方々、刺激を与えてくださった皆さまに感謝しています。2020年もよろしくお願いします。
【読書メモ】スタンフォード大学 マインドフルネス教室
- 作者:スティーヴン・マーフィ重松
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 単行本
個人的に2019年の流行テーマとなった「マインドフルネス」の総括として年末に読んだ本ですが、この本はマインドフルネスのやり方や実践事例について詳しく書いてある書籍とは少し違った内容でした。「マインドフルネス」というよりは「マインドフル」に関する本で、2019年に発売されて話題になった同じ著者の『スタンフォード式 最高のリーダーシップ』のベースとなる知識や考え方を深く掘り下げた本です。
- 作者:スティーヴン・マーフィ重松
- 出版社/メーカー: サンマーク出版
- 発売日: 2019/04/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
マインドフルな生き方
マインドフルネスという言葉の日本語的意味について筆者は次のように述べています。
マインドフルネスをもっともよく表す漢字は「念」であり、これは「今」と「心」のふたつの部分からきている。しかし、日本語で「心」が気持ち、強い感情、意識や思考、魂など、その人全体を指すのにたいし、西洋でマインドフルネスはといえば、ハートから切り離された知性や思考といったイメージを持つ人がいる。それを考えると、ハートフルネスという表現のほうが、「念」に近いだろう。
つまり、語感だけ捉えるとマインドフルネスは心と思考が切り離されているように捉えられそうだが、筆者の考えでは心も思考も今ここにあり、そこから新しい生き方を模索するのがマインドフルな生き方ということです。
マインドフル・リーダーシップ
マインドフルな生き方をベースとしたリーダーシップについて次のように述べています。これは『スタンフォード式 最高のリーダーシップ』でも述べられているこれからのリーダーシップの考え方のベースでもあります。
マインドフルなリーダーとは、自らの思考や行動を意識することができ、自分の影響下にある人々の潜在力を存分に発揮させられる人のことである。心の内側の、深い落ち着きと集中を備えた場所から生まれてくるこのリーダーシップを身につけたなら、いかなる事態が生じた際にも、そのたびに対応していく力を持つことができる。
8つのポイント
本書ではマインドフルであることのポイントが8つの章にわけて述べられています。
念(Mindfulness)
冒頭に書いたとおり心を今の状態に向けることがマインドフルネスの基本です。
初心(Beginner 's Mind)
「初心忘るべからず」という諺にあるように、学び始めた時の気持ちを忘れず常に謙虚であれということです。
ここでは「ヴァルネラビリティ」という言葉も引用されています。「ヴァルネラビリティ」とは弱みのことですが、謙虚であるために自分の弱さを受け入れて認めることが重要であると述べられています。
本当の自分(Authenticity)
「自分らしくある」ということでもありますが、ここでは「自分は何者なのか?」という深い問いについても述べられています。
絆(Connectedness)
「人とのつながり」の大切さについてです。ここでは他者への「共感」や「敬意」という視点で述べられています。
聴く力(The Heart of Listening)
他者理解の視点で「傾聴」について述べられています。コーチングなどでもよく出てくる「アクティブ・リスニング」についても触れられています。聴くというのは相手の言葉に耳を傾けることであり、話すのではなく「沈黙」が重要であると述べられています。
受容(Acceptance)
ありのままを受け入れる。日本語の「仕方がない」という言葉はどうしようもないと考えて諦めるというネガティブな意味で使われますが、病気などの受け入れざるをえない境遇ではそれを受け入れることも大切で、マインドフルな生き方に繋がると述べられています。
感謝(Gratitude)
他人へ感謝することは他者理解にも繋がるという視点で述べられています。そのうえでポジティブな思考に向かう感謝の気持ちは、科学的にも心理面に良い影響を及ぼすことがわかってきているようです。
義理、人情、責任(Responsibility)
ここでの「義理、人情、責任」は前述の「自分は何者なのか?」という問いに繋がる、より深い意味も込められています。自分らしく生きるというのは自分の都合で好きなように生きるという意味ではありません。ありのままを受け入れて周囲の人とのつながりを深め、自分らしくあるというマインドフルな生き方は「義理、人情、責任」も伴うということです。マインドフルにそれを追求することが求められます。
参考
著者が行っているグループワークを紹介した記事です。「あなたは何者なのか?」という問いについて語られており、本書の理解を深めることができます。
著者自身による解説記事で、特に「学び」という視点で書籍から文章が多く引用されています。
著者のワークショップの解説記事です。書籍にも出てくるキーワードが引用され、マインドフルとはどういうことか?についてまとめられています。