【読書メモ】エンジニアのためのマネジメントキャリアパス
エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド
- 作者: Camille Fournier,及川卓也(まえがき),武舎広幸,武舎るみ
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2018/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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巷でも話題になっていますが個人的にもちょうどこういう本を読みたかったタイミングでもあったため、久々に新刊を読みました(いつもはある程度時間を置いて周りの反応を見てから読むことが多い)。全体の感想として、エンジニア組織に属する人みんなに読んでほしい本です。特に、マネジメントを目指さないエンジニアや、コードを書かずにエンジニア組織のマネジメントに就く人にも読んでほしいと思いました。その理由も含めて、まずは個人的に印象に残っているポイントついて書いておきます。
オススメのポイント
エンジニア視点で書かれたマネジメント論
マネジメントの良書は世の中にたくさんあります。これらの本は広く一般的に支持されており、実際にマネジメントを目指す際には読むべきなんでしょうが、古典的な本が多いので日進月歩で進化する我々の業界に置き換えてイメージしながら読み進めるのはなかなか骨が折れる作業です。また、これらの本で書かれている例え話はたいてい企画や営業目線で語られているので、エンジニア視点でいったん自分の仕事に置き換えてイメージし直すという作業が発生します。これもまた読むハードルを上げている要因と言えるかもしれません。
エンジニア視点で書かれていることで我々の仕事と関連づけたイメージがしやすく、スムーズに読み進めることができるます。まえがきで及川さんが「エンジニアリングマネジメントはソフトウェア開発と似たところがあります」と書いていますが、この点についても他のマネジメントの本を読むよりもこの本のほうがイメージしやすいと思います。
もちろん、本格的にマネジメントを目指すと決めたならその次はドラッカー本なども読み進めるべきと思いますが、そこに向かうまでのハードルを下げてくれる本とも言えます。
- 作者: ピーター・F・ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/12/14
- メディア: 単行本
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マネジメントではなくマネジメントキャリアパスが主題
まえがきに書かれているように「エンジニアはマネジメントに関わることを毛嫌いする傾向」があります。せっかく技術スキルを磨いてもマネジメント職に就いたらその経験はあまり活かせないという事例もよく聞きます。しかし、組織においてエンジニアリングとマネジメントは両輪がうまく廻らなければ企業が継続的に事業を発展させることは難しいと私は考えています。継続的に事業を発展させられなければエンジニアの活躍の場も減っていくでしょう。組織の中でエンジニアがマネジメントに関わっていくことが健全に認知されないと、このような負のスパイラルに陥ってしまうと思うのです。そのためにはこれからキャリアを積み上げていくエンジニアにとって、この本のようにマネジメントキャリアパスが明示されていることは非常に価値の高いことだと思いました。
「複数チームの管理」の章に以下のような記述があります。
最低でも1種類のプログラミング言語を自在に使いこなせるようになっていないと、コード書きの作業からすっかり「足を洗ってしまう」ことの危険ははるかに大きくなります
これはこのポジションに就くまでに逆算して取り組むべき技術スキル習得のヒントにもなります。マネジメントキャリアパスを主題として読み進めることで、エンジニアリングとマネジメントを両立させてキャリアパスを歩むためのヒントが得られると思います。
マネジメントを目指さない人のキャリアパスの参考にもなる
一方で、一般的にはマネジメントから距離を置いたエンジニアのキャリアパスも明確に定義されていないケースが多いため、エンジニアがマネジメントから距離を取るとキャリアパスの迷子のになってしまう事例が起こりがちです。ある程度の規模以上の企業に所属しているなら、いかに技術スキルの高いエンジニアでもそれなりに意義のあるポジションに就いていなければ仕事を任される機会は得られません。私がマネジメントを目指さないエンジニアにも読んでほしいと思ったのはこの部分で、マネジメントを任されるにしても任されないにしても、組織の中で価値ある仕事の機会を得ようとするならマネジメントサイドと折り合いをつけながら仕事をするのは必須だと思うからです。マネジメントに関わらないにしても他人のキャリアパスを妨害するようなエンジニアが組織の中で価値ある仕事の機会を得られるとは考えにくいため、マネジメントキャリアパスを知っておいて損はないというわけです。マネジメントキャリアパスとは違う自分なりのエンジニアキャリアパスを模索するならマネジメントキャリアパスを知っておくことは無意味ではないと思います。
テックリードの章の「決断の時──技術職を貫くか、管理職への道を選 ぶか」の節に以下の項があります。
- 私の想像していた 「(部下をもたない)シニアエンジニアとしての日々」
- 現実の 「(部下をもたない)シニアエンジニアとしての日々」
- 私の想像していた 「管理職としての日々」
- 現実の 「管理職としての日々」
わりと生々しい現実を突きつけられる記述もありますが、マネジメントから距離を置いたキャリアパスをイメージするうえでのヒントにもなると感じました。
ボス・マネジメントの参考になる
ボス・マネジメントはマネジメントキャリアパスを歩むうえで必須ともいえるスキルです。リーダーシップの古典的名著であるジョン・P・コッターの「リーダーシップ論」でも「上司をマネジメントする」という章で述べられています。
- 作者: ジョン・P・コッター,DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部,黒田由貴子,有賀裕子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/03/09
- メディア: 単行本
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自分の職位だけでなくさらに上位の職位まで読み進めることで、自分の上司やその先の経営幹部に至るまでの職位の人がどのような課題を抱えて行動しているかをエンジニアの視点で知ることができます。自分に馴染みのない職位について書かれている章もそのような視点で読み進めればボス・マネジメントのスキルを磨くヒントにもなるでしょう。
読み進めるための補足情報
「まえがき」で及川さんが少し補足されていますが、日本では馴染みの薄い言葉がいくつか出てきます。これらは事前に意味を理解してから読み進めたほうが理解が深まると思います。
ジョブディスクリプション
「職務記述書」のことです。
具体的な職務内容や職務の目的、目標、責任、権限の範囲のほかに、そのポジションとかかわりをもつ社内外の関係先、必要とされる知識や技術、資格、経験、学歴など
採用時だけでなく社員の評価や昇進時にも基準として使われるようです。
キャリアラダー
ラダーとは「はしご」のことです。日本語だと「出世の階段」と言う言葉もありますが、少しニュアンスは違っていてもう少しきっちり体系化されたしくみを指します。
仕事を難易度や賃金に応じて複数の職階に細分化。それぞれの職務内容や必要なスキルを明確にし、下位職から上位職へ、はしごを昇るように着実に移行できるキャリア向上の道筋と、そのための能力開発の機会を提供するしくみ
キャリアパスの概要
読むべきポイントは前述の通りですが、それぞれのポジションで求められる役割やその意義について、概要をまとめておきます。具体的なマネジメントの事例やコツが知りたい場合は、本書を読み進めるのが良いでしょう。
マネジメントの基本
「上司に何を求めるか」と「管理のされ方」について。
『できる上司』に何を期待しますか?」と訊かれたら、答えられますか。
マネジメントの基本はマネジメントされる立場でマネジメントを認識する事から始まるという主旨。
メンタリング
メンティーとメンターの双方にとっての好機
双方にとって意義があるのは大まかに次の3つ
- 相手を通して会社や組織、人間関係を知る
- コミュニケーション能力を高める機会
- 未来への人脈づくり
テックリード
専門スキルとリーダーシップとが共に求められる役割
テックリードの主な役割は次の3つ
- システムアーキテクトとビジネスアナリスト
- プロジェクトランナー
- ソフトウェア開発者兼チームリーダー
人の管理
人の管理で求められる主な仕事は次の4つ
- 直属の部下との関係の構築
- 定期的な1対1のミーティング
- キャリアアップや作業の進捗状況、改善領域、功績の推奨などのフィードバック
- 各メンバーの研鑽を要する領域の見極めと、その領域の能力強化
チームの管理
作者によれば「チーム全体の責任を負う管理者」は「エンジニアリングリード」である。
人的管理以外に焦点を当てるべき側面
- ITスキルの維持
- 機能不全に陥ったチームの「デバッグ」
- チームの面々の「盾」になる
- チームの意思決定を主導する
複数チームの管理
この職位は大抵「技術部長」
このレベルの職位で必要な側面
- 時間の管理
- 意思決定の委任
- 開発チームの健全性を見極める
複数管理者の管理
期待される職務内容は、「複数のチーム を率いる管理者」の場合と大して変わらないが、以下の点が異なる。
各チームの専門分野が拡がる上に、プロジェクトの件数も部下の人数も自分独りでは到底管理不可能なレベルにまで増える
部署全体を管理するうえで外せないコツ
経営幹部
経営幹部の日々の職務内容は会社によって大きく異なる。
エンジニアである我々はテクノロジーの専門家ならではの責任 -- 絶えず変化を続けるテクノロジーの世界でキャリアを積んできた者ならではの責任を-- 担っているのです。
CTO、VP、技術本部長、統括者など呼び方は様々だが、とにかく技術部門の頂点に立ったらこの4種類の職務を果たしていく。
- 情報の収集・共有
- 注意喚起
- 意思決定
- ロールモデル
幹部の役割の一部
- 研究開発
- 技術戦略・ビジョナリー
- 組織化
- 執行
- 技術部門の対外的な「顔」
- 社内の技術インフラとその運用
- 事業化
トゥルー・ノース⇒管理者が職務を果たす上で外してはならない勘所
このような指導者になりたい人は、自信をもって迅速な意思決定を行えるよう、ぜひともキャリアの初期の段階から意識的に時間を割いて「技術者の勘」 を磨く努力を重ねなければなりません
文化の構築
文化の構築は技術系の経営幹部になると担う職責のひとつ。
文化は、拠り所となる重要なインフラの場合と同様に、チームが成長、発展していく過程で配慮を欠いてはならない要素
次の4つを判断基準にして自分の役割を見極める
- 社員の数
- 創業からの年数
- 既存のITインフラの規模
- リスク許容度
参考ブログ
他の人の感想を読むことで新たな気づきを得ることができるので合わせて読むと良さそうです。
「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス」から学んだことをまとめてみた。 – iida – Medium
マネジメントに興味がなくても騙されたと思って『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』を読んでくれ - dskst's diary
「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド」を読んだ - A1 Blog