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【読書メモ】マネジャーのための人材育成スキル

マネジャーのための人材育成スキル (日経文庫)

マネジャーのための人材育成スキル (日経文庫)

『会社を強くする人材育成戦略』という書籍の著者による姉妹書です。姉妹書のほうが組織論や経営視点で人材育成を捉えているのに対して、本書のほうがマネジャーが現場で実践するためのハンドブック的内容になっています。

マネジャーと人材育成

本書によるとマネジャーは「業務推進型マネジャー」と「人材育成型マネジャー」に分類され、人材育成型のほうが継続的に業績を高めていくことができると述べられています。

プロフェッショナルについては以下のように定義しています。

  1. 専門知識(わかる)…社会一般で通用する公式の知識、体系的に理解し、かつ説明できる
  2. 技術(できる)…実践的な技術、再現性がある
  3. プロ意識(プロフェッショナリズム)
    1. 自律と自己責任…やり方は自分で決める、その代わり責任を持つ
    2. 利他性…個人の満足と他者の利益のために最高品質を追求する
    3. 職業倫理…やるべきこととやってはならないことを明確に知り、厳格に守る
    4. 継続学習…常に最戦隊の専門知識を吸収し続ける向上心に終わりがない

プロフェッショナルを育てるには1万時間かかると言われています。そして、育つための条件としては、もともと才能があるかないかは関係なく、「ある一定の法則に則った経験を1万時間積み上げることができるかどうかということだけ」と述べられています。「一定の法則に則った経験」とは以下のような経験のことです。

  • 課題が適度に難しく明確であること
  • レベル設定が適度に高度であること
  • すぐに仕事の評価がわかること
  • 反省して再度挑戦する機会があること

これらは『「経験学習」入門』で言われているストレッチ、リフレクション、エンジョインメントの3つの要素とも共通しています。

radiocat.hatenablog.com

才能を操るとかの高度なテクニックは必要なく、これらの条件を満たし、途中で挫折することなく地道に継続したり、モチベーションをコントロールすることが一番大切ということです。改めてマネジメントの責任の大きさを感じます。

本書では人材の違いごとに育成の手法や考え方を述べています。後半では女性、同年代や年上、外国人など近年話題になりがちな多様な人材マネジメントについて書かれていますが、ここでは中盤までに書かれている育成ステージごとに述べられている部分についてピックアップします。一般的に知られている理論から、心理学などの専門的な研究結果なども紹介されており、ここで得た知識を足がかりに育成に取り組むのはもとより、さらに知識を深堀りしていくこともできると思います。

新人を預かる

新人に関しては次のように上司の役割がその後の成長に大きな影響を与えることが述べられています。

最初に就いた上司がいい上司だったか、そうでなかったか、またどのように仕事の仕方をする上司だったかによって、その人の生涯キャリアが大きく左右されてしまいます

また、OJTに関してはチーム全体で取り組む事例が多いことが述べられています。

新人のOJTがうまくいっている職場では、ひとりの指導員だけで新人の面倒を見るのではなくて、周囲の人々が協力して、多面的に指導している場合が多いようです

また、育成手法の1つとして「認知的師弟制」が紹介されています。次のような段階を踏む育成モデルです。

  1. 模範を示して、学習者はそれを見て真似をする(モデリング
  2. 手取り足取り指導して助言する(コーチング)
  3. できるところは独力でやらせてできないところだけ支援する(スキャフォールディング/足場づくり)
  4. 支援を少なくして自立に導く(フェイディング)

jinjibu.jp

コーチングの要素が入っているのが今風ではありますが、イメージ的には守破離に近い考え方だと思いました。「認知的師弟制」については様々な研究がされており、論文も公開されているようです。

若手を鍛える

ここで言う若手とは概ね20代の独り立ちしつつ中核的な業績を上げるためにさらなる飛躍が求められるステージの人材を対象としています。このステージで重要なのは「考える習慣を身に着けさせる」ことと、「強み弱みを伝える」ことです。育成手法としては一般的に紹介されているものがだいたい当てはまる印象です。

本書で紹介されているもので少し特徴的だったのは8つの枠でキャリアデザインをする「キャリア・マップ」と言われるものです。詳細は著者が書いた別の書籍『キャリアデザイン入門』で詳しく紹介されているようです。

中堅を伸ばす

「中堅」とは「30代を超えて中堅となる年代の部下」と述べられています。このステージでは上司ができることとして、3つに分けて述べられています。

  1. 背伸びしなければならない状態に追い込む
  2. 長期的なキャリア目標を設定させる
  3. 権限移譲して思い切って任せてみる

基礎を学び、自分で考えて成果を出せるようになった後、「自らの専門性を決断し、自分の仕事を自分で作り出せるように育成していく」というのがこのステージの育成です。

また、ここでは心理学からの引用で「自伝的記憶の自己機能」が紹介されています。自身のキャリアを振り返り、筋の通ったストーリーとして整理することで、「望ましい自己像」と「記憶の再構成」が行われます。

この会社に入社した動機から、現在に至るまでに記憶に残っている仕事のことなど、そこにある「筋」が存在するかのように話すのです。「望ましい自己像」の一貫性を維持するために、巧みな「記憶の再構成」が行われるわけです。

調べてみると自伝的記憶というのは様々な研究結果の論文が公開されているようです。

ja.wikipedia.org

参考

本書ではリクルートワークス研究所産業能率大学の研究結果や論文がよく引用されています。これらの情報はWeb上に公開されており、本書で引用された数年前の情報も随時アップデートされているので、常時参考にして役立てたいところです。

www.works-i.com

www.sanno.ac.jp

姉妹書である『会社を強くする人材育成戦略』については別途投稿しています。

radiocat.hatenablog.com