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レディオキャットハテナ

【読書メモ】ファシリテーション 実践から学ぶスキルとこころ

ファシリテーションのことを理解する目的で直前に読んだ本と合わせて読んだ書籍です。本書のほうが5人の共著ということもあり、著者らの実体験に基づいた生の声に近いものがそのまま文章として表現されています。当たり前ではありますが、直前に読んだ書籍とも表現する言葉は違えど共通する点が多々あると感じました。

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他の書籍とも共通している基本的な部分をまとめた後、この本で特に強調されていると感じた「実践から学ぶスキル」と「こころ」と表現されている部分についてまとめておきます。

ファシリテーションの基本

ファシリテーションは誰かが何かをするのを容易にしたり、促進するために使われる」と説明されています。他の書籍ともほぼ同じ説明です。

3つの基本

ファシリテーションの基本スキルは「空間デザイン」「グループサイズ」「板書」の3つであると述べています。

空間デザイン

空間デザインとは、どのような場を設けるか、席や机をどのように配置するかということです。席の配置については以下のような型が紹介されています。

  • スクール型⇒教室のような慣れ親しんだ形
  • ロの字型⇒お互い向き合う、対立関係になりやすい面もある
  • 多角形型⇒ロの字型を少し変形するだけで全く違う空間になる
  • アイランド型⇒グループ作業によく使われる
  • アイランド・ハの字型⇒角度を変えることでファシリテーターへの注目度が高まる
  • シアター型⇒スクール型の机なし版、前に立つ人に意識が向く
  • 扇形⇒シアター型よりも全体のまとまり感
  • サークル型⇒中心から等距離で始まりや終わりがない

グループサイズ

グループサイズとは参加者を複数のグループへ分けて議論や作業を行うスキルのことです。「確実にその場を変える」重要なスキルであるとしています。グループサイズの選び方によってメリット・デメリットがあり、その後の場の流れに影響します。

  • 大人数だと話しにくいが意見のバリエーションが多くなる
  • 少人数だとじっくり話せるが意見のバリエーションが少なくなる

議論が加熱した状態をクールダウンする時にも使えると述べられています。

板書

発言の内容を見える化することであり、ホワイトボード以外に模造紙、ポストイットなどのツールを使います。発言をあえて板書することで、次のようなメリットがあると述べられています。

「誰の発言か」よりも「どんな発言か」という発言内容そのものに注意が向く

書くスピードが会話のスピードを制限してしまうデメリットもありますが、発言を整理し、議論の展開の拠り所となる点ではデメリットをしのぐものがあるとされています。

4つのステージ

ファシリテーションは「共有〜拡散〜収束〜共有」の4つのステージで構成されると述べています。

  • 共有
    • 様々な情報や目的・ゴール設定などを共有し、参加と相互作用の根底を作る段階
  • 拡散
    • 自由な発想でアイデアを広げ、多様な可能性をふくらませる段階
  • 収束
    • 具体的な成果に向かって意見を集約し、まとめていく段階
  • 共有
    • 今までの成果を確認し、次に向けてのステップを明確にする段階

共有のスキルとして「OARR(オール)」が紹介されています。

  • OUTCOME(アウトカム):求める成果、生み出したい成果、ゴール設定、終わったときのメンバーの状態
  • AGENDA(アジェンダ):新講師台、討議項目とタイムテーブル
  • ROLE(ロール):メンバーそれぞれの役割や心構え
  • RULE(ルール):メンバー間のルールや、この場での約束事

※参考: OARR(オール) - 人材開発用語集 │ ダイヤモンド社の適性検査・社員教育・研修サービス

クリエイティブカオス

「クリエイティブカオス」とは「創造的混沌」とも言われる、創造的な成果を生み出すためには、なくてはならない重要な流れの一部であり、ファシリテーションの流れの中で通り抜けるべき難関であると述べられています。具体的には次のような場面のことを言います。

良いところまで来ているのに決定だが出ない、アイデアは拡がったがどれも納得できない、ああでもないこうでもないと意見が飛び交う

前出のファシリテーションの拡散から収束に向かう流れの中では大小様々なクリエイティブカオスが起きるとされています。大切なのはクリエイティブカオスを防ぐことではなく、その存在を知り、あわてずチャンスとして活用することであると述べています。

実践から学ぶスキル

ファシリテーションの向上

ファシリテーションを向上させるために重要なものとして次の2つが挙げられています。

コンテンツとプロセス

コンテンツは発言の内容、プロセスはそれ以外の発言者の態度、周囲の反応、空気などのことです。コンテンツの理解があって初めてORRAや本質的な問いができるようになります。また、プロセスをうまく扱うためにグループサイズ、空間のデザインなどを使います。コンテンツとプロセスの両方に注目し、場を読んで質問に活かすことが重要としています。

信頼を築く

ファシリテーションをするにあたって、ファシリテーターが信頼を築くことがまず前提として重要であると述べられています。ファシリテーターの信頼がなければ場の空気は悪くなり、議論へのモチベーションが下がってしまいます。そのため、言行不一致などを避けて、全ての意見に対して対等に接し、謙虚にふるまうことが求められます。

参加と相互作用

参加と相互作用を意識することも重要です。

  • 参加とは意味を共有すること
  • 相互作用とはお互いが影響を与え合い、それぞれが影響を受けて考えや行動に変化が起きること

その場にいるだけで心ここにあらずでは参加とは言えません。またそれぞれが言いたいことを言うだけの平行線であったり、逆に本音を言えていない状態では相互作用は起きません。この2つは単純で当たり前な事ではありますが、ファシリテーションに対する深い意味を持っていると思いました。

ファシリテーションのこころ

「こころ」とはファシリテーターとしての心得とも言い換えられます。それはの3つの「根っこ」であると表現されており、「メタスキル」「事前の準備」「志」で構成されます。ただし、あくまで大切なのは参加者の意思やそこから出てくる答えであり、ファシリテーターはそれを支援する立場であるという前提は忘れてはいけません。とはいえ、ファシリテーターもひとりの人間であり、これら3つに対する姿勢が場や参加者に影響を与えると述べられています。ファシリテーターという中立的な立場であるからこそ、極めようとすればするほどスキルよりもベースとなるこころが重要になってくるということだと思います。

  • メタスキル
    • ファシリテーターの人や場に対する基本的な姿勢や態度が、実は参加者に大きな影響を与えている
      • 言い方、態度や仕草、普段の人柄など
    • ファシリテーターは自分の中で起こっている感じや感情に敏感になろう
      • 感じ取ろうとする、共感によって発見や気づきを得られる
    • ファシリテーターは、時と場合に応じて、全く違うアプローチを使い分けよう
      • 釣り人のようにじっくり待ち、これだと思える瞬間に逃さずそれを拾う
  • 事前の準備
    • プログラムデザイン
      • 目標・ゴールを中心にデザイン
    • 対象者の理解
      • どういう人が何人、どんな思いや期待で参加するのか
    • 場のデザイン
      • どのような空間のどのような配置で集うのか
    • ファシリテーターが一人の人間として、どんな志や夢を持っているのか
    • 意識的にせよ無意識にせよ、プログラムデザインやファシリテーションの方向性に影響を与えてしまうことは避けられない