【読書メモ】シリコンバレー式 最強の育て方
シリコンバレー式 最強の育て方 ― 人材マネジメントの新しい常識 1 on1ミーティング―
- 作者:世古詞一
- 出版社/メーカー: かんき出版
- 発売日: 2017/09/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
1on1に関する本です。タイトルが意図しているのは、1on1がシリコンバレーでは人材育成の手法として当たり前のように実践されているということのようです。人材育成というとやや仰々しい感じもしますが、私もマネジャーとして1on1を実践していて、学びや成長を支援したいという思いは上司と部下としての対話である以上は必ず生まれてきます。そういう意味で、本書が述べている1on1による「育て方」というのは、学ぶ意欲を引き出して成長を支援するための対話手法であると感じました。
著者の世古氏はVOYAGE GROUPの経営幹部として1on1を導入されており、コーチ・コンサルタントとして他にも上場企業やスポーツ選手の支援をされているようです。
本書は前半は1on1の価値に関する知識的な解説、後半は実践に向けた解説で構成されています。1on1を行うにあたって上司としての現状を自己診断するためのマネージャ自己診断テスト、実践で活用する実践シートなども紹介されており、多くの実践から得たノウハウが詰め込まれています。ちなみに私は1on1の実践レベルは高度バランスタイプでしたが、部下との相互理解レベルはやや低めでした。本書の内容を実践してレベルを上げたいところです。
1on1は部下のための時間
冒頭では1on1について以下のように説明しています。
1on1ミーティング(以下1on1)とは、上司と部下による1対1の定期的な対話の時間です。一般的な面談との大きな違いは「これは部下のための時間」だということです。(中略)部下の気持ちがすっきりしたり、納得感を持ったり、次のチャレンジへ行動していこうとすることが最も重要なことです。
また、頻度については「最低でも月1回」、部下との関係構築ができていないうちは、「月2回を推奨」と述べられています。私も純粋な1on1としては月1回、MBOの状況確認も兼ねた形式で月にもう1回実践しています。後述の成長支援を考えた時に月に1回では情報を得るにしても、支援するにしても間隔が空きすぎるので、目標管理を主題とした1on1とテーマフリーの1on1を2週間おきに行うのがペース的にはちょうど良い間隔だと個人的には感じています。
1on1実践マップ
本書が紹介している1on1のスタイルは2つのステージと7つのテーマで構成されています。
信頼関係づくりステージ
- 1 プライベート相互理解
- 2 心身の健康チェック
- 3 モチベーションアップ
成長支援ステージ
- 4 業務・組織課題の改善
- 5 目標設定/評価
- 6 能力開発/キャリア支援
- 7 戦略・方針の伝達
本書のテーマである育成に着目し、「成長支援ステージ」についてピックアップします。
緊急度が低く、重要度が高い領域を扱う
1on1は特に重要度は高いものの緊急度が低いテーマを扱います。理由は単純で、緊急度が高ければ部下はすぐに相談しますが、重要度が低い場合は相談しにくいためです。
言い方を変えると、1on1では数字や具体的案件の進捗管理などの目先の成果に関することは扱わないのです。
明確に課題定義できないものはなかなか相談しにくいものですが、そのような課題でも重要なものはあるので、それを拾い上げて一緒に考えることで成長にも繋がるということです。
目標設定も評価も本質は育成
目標管理制度は人事評価制度と併用しているケースが多く、公正・平等に評価する必要性もあるため慎重に扱ってしまうことも多いと思われるMBOですが、本来ドラッカーが提唱したMBOというのは組織マネジメントの理論であり評価制度とは違った目的を持ったものです。
本書では「MGC目標作成法」という手法が紹介されています。MGCというのはMUST、GET、CANの頭文字を取ったものです。
- MUST
- 会社として行わなければならない目標
- WHY:なぜこの目標なのか?
- WHAT:目標は具体的に何か?そのために何を行うか?
- GET
- 目標の達成によって、自分のキャリアや人生に対して得られることをイメージする
- 目標の達成が組織成果やメンバーにどのような影響をもたらすか?をリアルに想像する
- CAN
- 目標を達成できるという感覚
目標管理を評価を得るためのものだけでなく、自身にとって何が得られるかを考え、実際に達成できるものであるかを考えるように促します。また、著者は目標管理について次のようにも述べています。
評価制度は「理解する」のではなく「活用する」もの
目標管理を1on1でフォローすることで、本質である育成に活用することができると思いました。
能力開発とはすでにある能力を自覚させること
能力開発に関しては「コルブの経験学習モデル」が引用されています。これは「ヤフーの1on1」でも引用されていました。
私も1on1の事前準備を行う時には経験学習モデルに従ってストレッチ、リフレクション、エンジョイメントの3つを意識してテーマを考えるようにしています。
参考
著者の対談記事も合わせて読むと理解が深まります。
【読書メモ】クレイジーで行こう!
シリコンバレーで水道管の劣化状況を予測するソフトウェアサービスを提供する「Fracta,Inc.(フラクタ)」を創業した加藤崇氏の3年間のベンチャー企業立ち上げの記録です。
著者はヒト型ロボットのベンチャー企業であるSCHAFT(シャフト)を創業し、その後Googleに売却したことでも有名です。
ベンチャービジネスの本ですが、事業会社で働く私にもたくさんの気づきや刺激を与えてくれる内容でした。特に、あとがきで著者が述べている以下の文章が気に入っています。
そう、僕は未来を予測する天才などではなく、現実を懸命に生きた凡人なのだ。これは大いなる凡人の物語だ。凡人であっても、仲間に恵まれ、志を失わなければ、社会にインパクトのあることを成し遂げることができる。
良いチームをつくること
全編通してこの本から学べることは「何かを成し遂げるには良いチームをつくること」であると感じました。そしてそれはベンチャーだとか最先端技術とかは関係なく大切なことであると実感できます。著者も次のように述べています。
技術だとか、営業だとか、テクニカルな問題というのは、結局は乗り越えられるもので、ただしそれを乗り越えるためには、良いチームに恵まれなければならないということだ。
そして、良いチームを支える才能と情熱にあふれた人たちはお金に代えられない希少価値であり、最大の敬意を払うべきであると述べています。
目覚ましいアイデア、才能を持った変わった人たち、その人たちの内側から溢れ出す情熱の集積、こうした非常にソフトなもの、ある種、移り気な才能の固まりのようなものが、経済の中でも非常に重要な役割を果たすようになってきていて、それは残念ながら希少価値を持っているために、世の中に溢れてしまったお金(資本)などよりもよほど重要で、こうした人たち(変わった人たちという希少資源)に対して無限大の尊敬を払うことができなければ、たちまちそっぽを向かれてしまうということになっている気がする。
才能と情熱ある人に敬意を持ち、良いチームで働くことが何より大切であるというのはHRTの原則の理念でもあり、まさにTeam Geekです。
巨大な資本を持つGoogleのエンジニアと、ベンチャー企業で戦う人たちが同じものを大切にしているということで、HRTの大切さを改めて認識できます。余談ですが、私のチームも 5S とHRTをバリューに設定しています。
正しい日本語を書くこと
もうひとつ、著者が重要だと述べているのが日本語の書き方です。
僕は、昔から自分の部下に対して、日本語の書き方についてうるさく言うことが多かった。何でも自由に見えるベンチャー企業にあっても、これは重要なことだ。なぜならスピードを重視するベンチャー企業経営だからこそ、コミュニケーションによる時間ロスは致命的だからだ。
確かに、良いチームはコミュニケーションの質も高いはずです。正しい言葉の使い方にこだわり、日々改善することが組織の力強い基礎になると著者は述べています。これは組織マネジメントの視点として参考にしたいです。
ベンチャービジネスはルービックキューブに似ている
著者が偶然口にして自分で納得したというエピソードが出てきます。これは何となくイメージできて、納得できる部分があります。
ある種のパターンはあるが、最初からパターンにはめようとしすぎると、計算量が膨大になり、逆に解くのが遅くなってしまう。大切なのは、あと2,3手でパターンに落とし込めるところまでは、まずはひたすらクルクル回し続けていくこと、直感を信じつつ、実験的な行動を続け、すぐに諦めないこと、その中でまた新たなパターンを見つけていくことだろう。
しかしこれもベンチャービジネスに限らず言えることではないかと思います。型にはめようとしすぎるとスピード感を失ってうまくいかないのは多かれ少なかれビジネス全般について言えることだと思います。そして諦めずに「クルクル回し続ける」というのはコンパクトにPDCAを回し続けるということだと思います。これもビジネス全般に言えることです。弊社の リーダーシッププリンシプル にも「小さく試して大きく育てる」とあり、私も日頃から大切にしている事のひとつです。
参考
本書に関して著者がインタビューに答えている記事がいくつかあるので合わせて読むと理解が深まります。
【読書メモ】ファシリテーターの道具箱
ファシリテーターの道具箱―組織の問題解決に使えるパワーツール49
- 作者:森 時彦/ファシリテーターの道具研究会
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/03/14
- メディア: ペーパーバック
年明けからファシリテーションに関する書籍を読み漁っています。読みすぎて全ての書籍をブログに書けていないくらいです。読めば読むほどファシリテーション・スキルというのは独立したスキルというよりは、様々なビジネススキルと思考法を融合した課題解決の手段であり、習得していくことで組織やチームは当然ながら個人も成長させることができるスキルとマインドが得られると感じます。
本書はファシリテーションで扱われる様々なビジネススキルと思考法を49種類の「道具」としてまとめた書籍です。様々なビジネススキルと思考法がベースとなっているため、ファシリテーターではなくても知っておくと役に立つものです。そのような道具のうち個人的に気に入ったものをいくつかまとめておきます。
これだけは身につけたい道具
他の書籍でも必ず紹介されるような定番の手法が紹介されています。
- アイスブレーク
- グランドルール
- パーキングエリア
- ブレスト
- 親和図
- ゴールツリー
- 4W1H
定番ものばかりなのであえて取り上げるまでもないかもしれませんが、アイスブレークの手法についてはエンジニアの勉強会などでうまく扱えるとカッコいいんだろうなと思いました。
ウソつき自己紹介
自分のエピソードを3つ紹介します。そのうち1つはウソのエピソードにしておき、どれがウソか他の人に当ててもらいます。
ウソを混ぜるというルールによって、自己紹介をする方もされる方も真剣に考えることになると思います。ただ、エピソード3つを考えるのは、コミュ力の高い営業さんなどの集まりならまだしもエンジニアの勉強会などでやるのはまあまあハードルが高そうです。
ペアを組んで、相手にインタビューしてから全員にその相手を紹介します。自分ではなく相手を紹介するので他己紹介です。
私は社会人なった直後の新人研修でこれをやった記憶があります。自己紹介よりもインタビューする人の視点に偏った紹介になるので、本当にその人の事を知る目的もある場合は「所属とエンジニア歴は必ずインタビューしましょう」などの条件をつけてやると良いかもしれません。
顔ジャンケン
ペアで向かい合って、グーチョキパーを顔で表現してジャンケンをします。
これだけはやったことのない手法でした。初対面や上限関係が意識されるような真面目な場ではハードルが高いかもしれませんが、同年代や気心知れた間柄であれば盛り上がりそうです。
アイスブレークの手法というのは世の中で色々考えられているようで、ネットで調べてみると他にも色々と出てきます。
シンプルに考えるための道具
出てきた意見や課題をシンプルに考える=整理するうえでまず重要なのは分類することだと思います。
解決に結びつけるために、どういった視点で分類するかがポイントです。
コントロール可能・不可能
出てきた意見をコントロール可能なものと不可能なものにに分類して、できることに集中するための分類方法です。
ふりかえりで自分たちでは解決できない問題に注目してしまい改善アクションが見つからないというようなことが時々ありますが、そういう時にいったんこの分類で整理してみると良さそうです。
モア・レス
今後増えるものと減るものに分類する手法です。ビジョンづくりなどの際に使って将来のイメージを共有したり、課題改善に向けて増やせることと減らせることを分けて分析するなどの使い方ができます。モアレス分析というビジネスフレームワークとして、ファシリテーション以外でもよく使われる手法です。
As is To be
現状とありたい姿を整理する分類法で、そのギャップを埋めるための目標を考えたりする使い方です。
これもビジネスフレームワークとしてもよく紹介される手法だと思います。
愉快にロジカルに進める道具
意見が収束しなかったり、対立意見が出て空中線になりそうな時は、一定のロジックやルールに従って整理することで収束に向かわせることができます。
できていることチェック
まずできていないことから洗い出し、次にできていることを洗い出して、できていることの中から次のアクションを決めます。
課題は洗い出せたものの、実行可能なアクションが見つからない時に、できることとできないことを分けて考えて、自分たちができそうなことの延長でアクションを決めるというのはふりかえりでも使えそうです。
PREP法
議論を端的かつロジカルにするための手法です。PREPは以下の頭文字です。
- P=Point(結論)
- R=Reason(理由)
- E=Example(事例、具体例)
- P=Point(結論を繰り返す)
参加者の中にダラダラと話しがちな人や、意見がまとまる前に考えながら発言したりする人がいると、PREP法を説明して「こので話しましょう」と誘導することで、会議が長引くのを回避でき、出てくる意見もロジカルになります。この手法もビジネスフレームワークとしてもよく紹介されます。
実行力を高める道具
ビジネスではロジカルさも重要ですが、スピードも重要です。一定のロジカルさを維持して素早く実行に移すための上級者向け手法です。
デシジョンツリー
アクションを決めれないときに、実行した場合、しなかった場合など整理します。
もともとのアクションがしっかり検討できていないと、実行してもしなくても効果が少なかったりするので、使い所は選ぶ必要があり慣れが必要だと思います。
期待と課題マトリクス
アイデアは出たけど課題もたくさんあったり、反対意見も多い時に期待することと課題の2つに分けてマトリクスをつくり、交わる部分でポイントを絞ってアクションを決めていく手法です。
マトリクスの枠ひとつひとつに注目してしまうと結局時間がかかるので、ファシリテーターとしてはその中でさらにポイントを絞るようにうまく進める必要がありそうです。
参考
書籍で紹介されているファシリテーターの道具の一部は以下のサイトでも著者自身が記事として紹介しています。
【勉強会メモ】スクラム道関西 オープンジャム
- 日時:2020/01/27(月) 19:30 〜 21:30
- 場所:株式会社ラクス
数ヶ月ぶりに弊社にお招きしてのスクラム道関西です。月曜なのにたくさん来ていただいて、とても嬉しかったです(会場提供しただけですが)。
今回のテーマはこちらです。現場の実践的な課題感というか、面白そうなテーマが多いと感じました。
OST形式で3セット実施しました。
1on1の落としどころ
- 上司と部下以外に、メンバー同士でも実践
- 社員以外にパートナーさんなど
- マネージャが勝手にアサインしている
- ルールは特に無い場合と、会社からやり方の説明を受けている場合がある
- 頻度は毎週だったり不定期だったり
- テーマは特に決めず、自由に話す(世間話なども)
- 仕事で困っていること、目標管理の相談など
- 毎週1on1できる部下は5人まで
- 上司として指導することもある
- 本当に問題があれば上司間で連携
出てきた意見は順不同です。様々な形式があると改めて感じました。とにかく相談相手だったり関係性の構築を目的として場を設けることがメインのケースが多いように思います。なので、決まった形はなく何かあった時に助け合ったり行動に移せる関係性ができているかどうかが落としどころかと思いました。
POの学びかた
- ビジネス視点
- 数字に強い
- データ分析ができる
- 世の中、市場のことを知る
- 職種的には非エンジニアで、コンサル、マーケティング、Webディレクターなどが向いている
- WhatとWhyが大切
- プロダクトマネジメントトライアングル
- POをさらにPdMとPjMに分担
- より価値やプロダクトよりなのはPdM
- PBIの切り方やプロダクトがいつごろ完成するかの判断はPjMに任せる
- エンジニアがやる場合はエンジニアを捨てる覚悟がいる
- 営業や企画から急にPOをやるのも戸惑いはあるかもしれない
- サービスのマネジャーなどのキャリアパスに繋がるのでやりがいはある
エンジニアのチームがスクラムを始めたときにPOはどうやって学んでいくのかという主題でしたが、エンジニアとの両立は難しそうな雰囲気でした。ありえるとしたら、PdMとPjMに分担する事例に倣って事業寄りの人に協力してもらい分担することかもしれません。そんな人がいるのなら普通にその人にPOをやってもらうのがいいのでしょうけど…
言葉のカベをこえるチームビルド
- 文化の違い、前提の違い、その人の考え方の違いがある
- 歩み寄りは必要
- 違いをお互いに認識し合う
- お互い歩み寄る意識なく仕事を求めて日本に来ているだけの人もいるかも
- NGのルールを明確化して伝える
- 一緒にご飯を食べる
- たいていの人はカタコトの英語で最低限の意思は伝わる
- 国によって自己主張の強さが違う
- 自己紹介をし合う
日本人同士ではありえないような振る舞いを起こした事例もあったようで、全てを理解するのは難しいという印象でした。わりと変わった国の人と仕事をしているケースもあるようで、そもそもその国の文化がわからんというのもありそうです。ルールを明確化して言葉で伝えることも大切だとは思いますが、やはり一緒に仕事をする以上は自己紹介やご飯を食べるなどのお互いを理解し合うような場づくりというのが大事だと個人的には思います。
余談ですが、年末年始に読んだ『異文化理解力』を紹介しようかと思いましたが時間がなかったです。
【読書メモ】ロジカル・ライティング
社会人になって書くビジネス文書をうまく書くにはコツがあって、ある程度慣れも必要です。ところがほとんどの場合はそれを誰かに教わって覚えるというよりは経験によって身につけるケースが多いのではないでしょうか。私もそうやって身につけました。そのため、自分が経験で得たコツを後輩や部下に伝えるのは思ったより難しかったりします。
議事録を書けと言われたけどどうやって書けばいいのかわからない、後輩に議事録を書いてもらったけど思ったものとは違った、でも何から直してもらえば良いかうまく伝えられない、そういう時のために、本書のようなきちんと整理され、活用実績のある手法というのが役に立つと思います。ビジネススキルは一昔前のように有無を言わさずやってみて、経験から自分で学べという時代ではなくなってきているので、きちんと手法を理解してもらってから経験によって知識を深めてもらう必要があると思っています。
本書はわかりやすい文書の書き方とはどういうものかを説明したあと、たいていの社会人が書くことになる主な種類のビジネス文書について、種類ごとに書き方のコツが説明されています。新入社員には1人ずつに配って読んでもらいたいなと思える本でした。
わかりやすさ=論理性
ビジネス文書の要件は「わかりやすさ」であり、「わかりやすさ」に必要なものは「論理性」であると冒頭で述べられています。では、論理的な文書とはどういうものかというと、以下のように説明されいます。
メッセージやストーリーが筋道立っていて、構成が構造的である文書
反対に論理的ではない文書は以下のように説明されています。
話が見えなかったり飛躍したり、構成に全体観や関連性が見えないもの
ここは論理的ではない文書の説明から考えると理解しやすいのではないでしょうか。わかりにくいと感じる文書はたいてい、全体がぼんやりしていて読むとモヤッとしたり、内容が飛躍して理解が難しいことが多いと思います。
わかりやすいビジネス文書の3つの要素
上記をふまえて論理的なビジネス文書は3つの要素が重要であると言えます。
- メッセージ:主張と根拠
- ストーリー:話の展開
- 構成:話の全体像
相手を知る
本書ではわかりやすさのひとつとして、文書を読んでもらう相手を知ることの重要性が特に丁寧に説明されています。以下の説明がその理由のひとつです。
ビジネス文書はコミュニケーションの手段です。コミュニケーションの基本は相手目線です。
相手目線に着目しているところが本書の特徴であると私は感じました。たしかに著者の言う通りで、実際のところ私の経験でもわかりやすい文書であると感じる時は読み手に寄り添った視点や言葉で書かれていると感じます。
本書では「ターゲットプロファイル」や「SWAT分析」などマーケティングなどで使われる手法も使ってターゲットを知る方法が詳細に説明されています。
目的を明確にする
わかりやすく相手に伝えるためには目的が明確でなければなりません。そのために相手目線を意識して目標設定します。
- どんな行動をとってもらいたいのか(ゴール)
- そのために何を理解してもらいたいのか
- そのためにどのような状態にするべきか
ビジネス文書の書き方
本書では様々なビジネス文書の書き方を以下の4要素の構成で説明しています。
メッセージの構成
- マインド(基本的な考え方)
- フレームワーク(骨子)
- 情報収集
- ストーリー
上記のメッセージの構成に合わせて各文書の書き方を説明しています。
- 議事録
- 通達文書
- 報告文書
- 調査報告書
- 依頼文書
- ソリューション提案書
- 企画提案書
これだけの文書について書き方を知っていればたいていのビジネス文書に応用できます。
それぞれの文書の書き方について概要だけピックアップしておきます。
議事録
- 要件
- 決定事項が把握できる
- 論点と経緯がわかる
- スピード
- マインド
- コスト意識と責任感
- フレームワーク
- 基本情報
- 目的・ゴール
- 議事内容
- 決定事項
- 情報収集
- 事前準備
- 参加者の把握
- 前提知識の把握
- 合意事項の予測
- 会議中
- メモの取り方
- 事前準備
- ストーリー
- ①議題に対して、②どう議論が展開されたのかという流れ、③議題に対する結論、④結論に対して了解が得られたかどうか
告知文書
- 要件
- 伝えるべき事実にあいまいさがないこと
- 相手にとっての意味がわかること
- マインド
- 相手意識と立場意識
- フレームワーク
- 発信者・受信者
- 告知情報
- 詳細情報
- 情報収集
- 問い合わせや例外事項への対応方針まで決めておく
- ストーリー
- SWATやプロファイルをもとに検討
報告文書
示唆がない結果の羅列は意味がない
- 要件
- 責任がまっとうできているかどうかが理解できること
- その活動が続行か変更かという投資判断ができること
- 実績として自分のやったことを評価できること
- マインド
- 相手が自分に抱いている期待を認識し、それに答えようという意識
- 感謝の念
- フレームワーク
- 目的
- 成果・進捗
- 活動
- 総括
- 課題と予定
- 情報収集
- 「事実」と「所感」を混在させないように留意して情報を集める
- 事実だけではなく、自分というフィルターを通した判断が求められる
- ストーリー
- 成果や進捗状況サマリーなど結論を先に述べ、根拠となるデーターなど細部を並べていく分類型の展開
調査報告書
依頼文書
相手の立場にたつ
- 要件
- 相手が何を依頼されているのかがわかること
- 依頼されている理由が妥当であること
- 気持ちよく依頼を受けたいと思える配慮がされていること
- マインド
- おもてなしの心
- フレームワーク
- 依頼要約
- 依頼理由
- 依頼詳細
- ベネフィットまたはリスク
- 確認
- 情報収集
- フレームワークに従って情報を集め、相手からの想定質問を洗い出す
- ストーリー
- 礼を尽くし自分の気持ちを伝える
ソリューション提案書
相手の心を動かし意思決定させる
- 要件
- あるべき姿が描かれていること
- 問題が特定できていること
- 解決策に具体性と信頼性があること
- マインド
- 相手の情報をどれだけ引き出せるか
- 「視座」を高め、「視野」を広げる思考
- フレームワーク
- 現状とあるべき姿
- 解決すべき問題
- 実現イメージ
- 予想効果
- 進め方
- 信頼性
- 情報収集
- 3C
- ストーリー
- Why+What中心
- What+How中心
- 具体性と信頼性を訴求する
企画提案書
- 要件
- 記憶に残ること
- やってみたいと思わせること
- マインド
- ロジカルシンキングだけでは新たな方向性を見出すのは難しい
- ラテラルシンキング(水平思考)
- 前提を疑う
- 見方を変える
- 組み合わせる
- フレームワーク
- 企画全体像
- 企画概要
- 進め方
- 予想効果
- 想定リスクと対応策
- 情報収集
- 企画を魅力的に思わせるために、相手の感情に訴求する材料を集める
- 感情分類(ロバート・プルチック)
- ストーリー
- 4つの不のステージ
- 不信・不適
- 不要・不急
- 不経済
- 不安
- 新しい概念を図で示す
- 4つの不のステージ
参考
著者は経営・人材育成コンサルティング事業を経営する清水久三子氏で、他にも多数の書籍を出版されています。